「少女漫画脳で描きました」理想のおじさま上司に胸キュンする『恋するお菓子とエトランジェ』作者・サノマリナさんインタビュー
公開日:2022/6/18
仕事も恋もイマイチな主人公・佐藤あみが出会ったのは、グレーがかった瞳にチョコレート色の肌、そしてサスペンダーの似合うフランス人の素敵なおじさま、アラン・ジロー。なんと彼は、あみが参加する新プロジェクトのリーダーだった……!『恋するお菓子とエトランジェ』(サノマリナ/オーバーラップ)は、お菓子が結んでくれた出会いが、真面目でちょっと不器用な女性を成長させてくれる物語。著者のサノマリナさんに作品に込めた思いや制作秘話をうかがいました!
――コミックス1巻発売おめでとうございます!まずは本作を執筆することになった経緯をお伺いできますでしょうか。
サノマリナ(以下、サノ):ありがとうございます。私はそもそも広告やマンガでわかる系の漫画を描いていたのですが、それを知っていた現担当編集さんから「オリジナルの漫画を描かないか」と声をかけられました。そのときちょうど取り憑かれたようにジローさんのイラストを描いており、このおじさんを主人公に漫画を描きたいなぁという気持ちが沸々とわいていました。担当さんからもジローさんの漫画が読みたいと言われ、意見が一致していたので依頼を受けることにしました。
――あとがきで「2020年3月頃突然おじさんの絵を描くことに目覚めました」と記載がありましたが、何があったのでしょうか?
サノ:ちょうどその頃私生活でストレスが溜まっており、自分を労うために自分の好みの要素を詰め込んだキャラクターを作ろうと思ってできたのがジローさんです。私は長年、人の依頼に応えてキャラクターを作る広告の漫画を描いていたので、思った以上に自分のために絵を描くことが少なかったのです。それゆえにジローさんを一度描いたら「は…このおじさん、めっちゃ私のタイプなんだが…」となって描くのにハマってしまい、中毒者のようにジローさんの絵を描いてはTwitterに上げるということを繰り返していました。当時、アドレナリンが出まくっていたのか、絵を描いていれば寝なくても平気だったのです。こわいですね(笑)。
――続いて作品についてお伺いします。まずはやはりジローですが、素敵な要素がたっぷり詰まっているおじさまキャラはどのように作られたのでしょうか? フランス人に設定された理由も気になります。
サノ:ジローさんはビジュアルに私の性癖を詰めっつめにしているんですが、中身もこういうおじさんが好ましいなと思う要素を詰めています。まず見かけに反してかわいらしさがあるといいよね……ということでお菓子好きにしました。これはかなり最初からあった設定で、漫画を描くにあたって、ちゃんと仕事哲学があり、頼れる上司で、問題への対処がスマートで……など仕事人としての側面を肉付けしていきました。それをやるうちに彼がどういう人生を送ってきてこうなったのか、と人格形成について考えるようになり、そこからプライベートでの性格も作っていきました。たぶん連載では出せないと思いますが、ジローさんの過去は結構詳細に考えてあります。
フランス人になったのは、周りのフランス人を観察してジローさんのキャラに反映できるからです。どこの国の人でもよかったのですが、私が多少リアルに描けるのは自分が住んでいるフランスという国の人かなと思いました。
――コミックス1巻の描き下ろしで描かれている髪をセット前の、朝のジローの姿が可愛かったのですが、こだわられたことや注目ポイントはありますか?
サノ:描き下ろしは何を描いてもいいということでしたが、担当さんからのジローさんの私生活が見たいという意見を取り入れて描きました。が、そもそもいつもピシッとキメてる人がたま~にヨレっとした格好をしているのが好きなので、自分でも描いていて楽しかったです。出社の準備を終えて、最後にポケットに入れているチョコレートに注目していただきたいです!
――続きまして、本作のヒロイン・佐藤あみについて教えてください。こちらもどのように考えられたのでしょうか? 読み手が共感できる要素がとても多いと感じます。
サノ:あみを作るのはなかなか苦戦しましたが、ジローの影響を受けて成長する一生懸命なキャラクターにしようというのは初めから決めていました。自分自身が少女漫画を読むときに応援したくなるのがそういうキャラクターだからなのですが、そこに読者のみなさんが共感できそうな要素を足していき、最終的になんでも少女漫画的に考えてしまう少女漫画脳のキャラになりました。これは担当さんと私がまさに少女漫画で育ってきた少女漫画脳なので、話が作りやすかろうという考えもありました。あみがいちいち反応しているジローの言動は、まさに私がここ!見てくれ!と思っている部分です。そういう意味ではあみにはたまに私が憑依しているとも言えますね。
――タイトルにある「エトランジェ」はフランス語で「外国からの旅行者、異邦人」という意味があります。「恋するお菓子」があみ、「エトランジェ」がジロー、ということになりますでしょうか?
サノ:その考察、素敵ですね!「エトランジェ」はまさにジローさんのことを指していますが、「恋するお菓子」は話の内容を端的に表したらこうなりました(笑)。タイトルを見たら、ああ、お菓子と外国人が登場する恋愛漫画なのだろうと想像つきますよね。ロマンも何もなくて申し訳ないです……。でもあみの名字「佐藤」は「砂糖」から来ていますが、これも何のひねりもなくて申し訳ないです(笑)。
――仕事に追われたあみに、ジローがアドバイスするエピソードも素敵でした。こんな上司が欲しいと思いましたが、こちらもサノマリナ先生の理想の上司像などから生まれたエピソードですか?
サノ:ジローさんは完全に理想の上司像を反映していますね。ジローさんはあみに対して「この子不器用だな」と思ってると思うんですが、あみが何か言ってくるまでは世話を焼いたりはしません。そのかわりそっと仕事への自己肯定感を高める評価を口にしたり、聞かれれば解決策のヒントを与えたりする、そしてピンチのときは助ける、そんなおじさん上司……私もほしかったですね……。
――そして度々登場する重要なアイテムがさまざまなスイーツです。これらのお菓子はどのように選ばれていらっしゃるのでしょうか?
サノ:お菓子は今回のエピソードに外せないのはこれだと思って選ぶものもありますが、半分くらいはそのときのフィーリングで選んでいます。大体自分が好きなお菓子を選抜してますね。私は特に話題のお店をチェックしたりはしませんが、お菓子自体は大好きです。本作を描くにあたってフランス菓子の辞典は買いました。日本のお菓子は流行のサイクルが早くて海外在住だと感覚がつかめなかったりするので、担当さんや友人・家族に日本でどんなお菓子が流行ってるか聞いたりします。それでも描いてるうちに流行りが過ぎてしまったりしますが……。
――どのスイーツもとにかく美味しそうに描かれていますが、もともとスイーツのイラストも描かれていたりしていたのでしょうか?
サノ:いやもうそう見えていたら万々歳です。これまでお菓子や食べ物を重点的には描いてこなかったので、最初にジローさんを描いたとき、一緒に描いたケーキの下手さに絶望し、そこからお菓子を描く練習を始めました。なのでお菓子描き人としては全然初心者で、見る人が見たら鼻で笑われるレベルだと思います。それでも私なりに描くときにはほかの人物のタッチなどと調和がとれるようにディフォルメすることを心がけています。
――試し読み連載の3話までで、特にお気に入りだったり苦労したりと印象に残っているシーンやエピソードはありますか?
サノ:お気に入りは1話のパフェのお店でジローさんがジャケットを脱ぐシーンです。実はサスペンダーが好きで、それでジローさんにも着用させているんですが、作中の仕事のシーンではずっとジャケットを着ているので見えないんですよね。そのサスペンダーが初めてお目見えするシーンなので、あみにも必要以上に驚いてもらいました。私もサスペンダーしてる会社員を過去に一人しか見たことがありません。みんなもっとすればいいのに……と思います。
ほかには3話に出てくるお菓子ガレット・デ・ロワをフランスに来て知ってからは、これは絶対漫画に使おうと思っていました。
――そして、3話以降も胸キュンなエピソードが盛りだくさんです。これからご覧になる読者さんに、今後の読みどころを教えていただけないでしょうか?
サノ:これまではジローさんの柔和な面しか出てこなかったのですが、珍しく怒るシーンが出てきますよ。そこはあみの気持ちが大きく動くエピソードでもあるので、ぜひご覧いただければと思います。また、1巻の最後では次巻が気になりすぎる新キャラが登場しますので、こちらもチェックしていただけたらうれしいです。
――では最後に、読者の皆様にメッセージをお願いいたします。
サノ:以前から私の作品をご存知の方も、この作品で知ったという方も『恋するお菓子とエトランジェ』を読んでくださりありがとうございます。コミックスの発売とweb連載の開始がほぼ同時だったので、制作期間は読者さんの反応がわからずかなり孤独でした。蓋を開けたら想像以上に多くの方に読んでいただけて感無量です。引き続きジローさんのかっこよさも、あみの恋の行方も、そしてお菓子も楽しんでいただけるよう頑張っていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。