近所に住む同級生の“のびさん”。価値観が似ている彼女と僕は、自然と仲良くなる/片岡健太(sumika)『凡者の合奏』
更新日:2022/7/20
同級生が誰も知らない世界を一人で愛し抜いている彼女に、「なんでそんなにいろんなことを知っているの?」と聞いたら、「年が離れた兄と姉の影響かなあ〜」と言った。奇を衒いたい訳ではなく、年上の兄姉の好みが自然と自分の物差しになった結果、同世代の中で自分がマイノリティーになってしまったのだ。いつの頃からか、僕はその姿を自分に重ねるようになった。
まわりの同級生が誕生日に流行りのゲームやラジコンを買ってもらっている中、僕は姉の影響でCD収集やギターのコード表を買うようになっていた。また、ある年のクリスマスに姉が財布をもらって喜んでいたのを見て、次の年のクリスマスには僕もサンタさんに財布をねだることにした。あの日、姉がどうしてあんなに喜んでいたのか、その理由が少しでも知りたくて欲しくもなかった革の財布を手に入れた。結局その理由は分からなかったけど、こんな具合で同級生の欲しがる物とは少しズレたものを手に入れるようになっていたのだ。
そんな僕を見て、同級生は「健ちゃんの趣味って、時々大人ぶってて、気持ちわりいよな」と言った。悪気はないと分かっていても、僕の胸はチクリと痛み、その言葉は心に刺さってなかなか抜けないトゲとなって残った。
年の離れた兄弟によって価値観が育まれた者同士、僕らが仲良くなるのは自然なことだったのかもしれない。そして、そんな生きづらさを理解し合える感性を持った人と出会ったのも、初めてだった。恋愛感情を持つのがもったいないくらいに、僕はのびさんのことが好きになった。