無冠の父
無冠の父 / 感想・レビュー
ぐうぐう
「私には、父や母がどんな人間であれ、他人様に語って聞かせるという行為自体が、恥ずかしいのであった」と阿久悠は書く。父や母を恥じているわけではない。決して波瀾万丈ではない親の人生をこれ見よがしに語ることの恥を阿久は言っているのだ。そんな阿久が父のことを書く。『無冠の父』とのタイトルで。その堂々たる宣言は、読み進めていくと納得でもあり、と同時に裏切られてもいく。それは読者だけではなく、阿久自身にとってもだろう。生涯巡査であった愚直で不器用な父の姿を振り返る時、反面教師とすら考えていた父の生き様に、(つづく)
2024/05/10
kiyoboo
作家故阿久悠さんの私小説。九州生まれの父親は兵庫県警所属で淡路島へ配属され、駐在さんとして生活している。明治生まれの父は厳格で住民に対しても公平で職を全うしていた。子供心にも融通が利かない父と思いながらも尊敬している。淡々と語る父の生き様を温かい目で書かれている。気弱な兄が出征する場面は避けて通れない昭和の歴史が迫る。戦後直後、時代が大きく動くので暴動が起こるのでは、父は切腹するのではと周囲が危惧するが、作者の頭に大きな手を載せたので周囲が安堵する。ヒットメーカーとしての阿久悠の原点を垣間見た作品だった。
2014/12/31
お静
自分の親の事を話すのは恥ずかしいと前置きしながら父親の話だった。駐在所のお巡りさんだった父の筋の入った理念のもと育てられた。あの阿久悠氏が!なかなか結びつかない。宮本輝が流転の海の父親に育てられたーに匹敵する意外に似ている。
2017/08/10
しゃんしゃん
歿後に発見された未発表作品。生涯巡査であった父と家族の物語。著者の自伝的小説。親父と語り合うことが少なかった時代があった。決して愛情がなかったわけではない。社会的に偉いと言われる存在ではなかった。けれど懸命に生きた。家族のため必死に生きる親父は愛情表現がぎこちなく不器用だった。そんな時代を思い出し改めて親父のぬくもりを思い出させてくれた。久しぶりに褒めてもらったあの日、思い切り叱られたあの日を想い少年の日々に帰ることが出来た。阿久悠さんに感謝。
2016/05/01
okatake
阿久悠の未発表小説. 家族について話すテレビ番組を断り続けた著者. 欧州旅行中に突然父の死を知らされ,帰国するところから始まる. 御自身の父の生涯をたどった小説.淡々とした語り口ではあるが,その裏には親しみや愛が流れている.
2011/11/25
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