E・A・ポウを読む (岩波セミナーブックス 52)
E・A・ポウを読む (岩波セミナーブックス 52) / 感想・レビュー
western
「狂気の作家」といった紋切型ではなくマガジニストとしての側面を強調することで、ポーがいかに小説ジャンルに対するメタ意識を持ちそれらジャンルを脱構築していったかを辿る。「第3章 寓喩としての嵐」 あらゆる解釈をすり抜ける謎めいた傑作「赤き死の仮面」を、red deathよりもmasqueつまり「仮面/仮面舞踏会」の主題から読み解くならば、「ウィリアム・ウィルソン」的な分身/仮面物語と重要なモチーフを共有しつつ、「群衆の人」のようにテクストが自己自身の読み得なさを暴露する「読むことのアレゴリー」だとも言える。
2019/05/16
蛸
自身がポーについて無知だったこともあり、特に第一章のマガジニストとしてのポー像を解説した箇所が面白かった。作品に先行する枠組み(作品のジャンルや発表媒体)によって、作品内容が規定されるという文学観。「ルールの上でいかに戦うのか」という商業作家的姿勢。ポーの明らかに「政治的に正しくない」矛盾した側面が、いかに彼の作品郡の底流に流れているのか、またそのような側面と彼の文学的達成の関係性についても詳しい。ミソジニーやレイシズムは恐怖の裏返しでしかないとすれば、恐怖を扱う作家にとっては霊感源ともなりうるのか……
2018/05/12
非日常口
当時、恐慌とパルプの発明の重なりから大衆小説という商品、商業性を前提とした雑誌は、読者に受けた過去からキーを抜き自身の作品に差込むことで売る。読むは書くの一変型となった。詩はグロテスクな美を、散文はサブライムな真理を描く。男は作者で女は母という美女再生譚に彼の過去がちらつく。多様性/統一性/独創性<アレゴリー/効果の関係を指摘するために、ホーソンを肯定し否定した作者は、読み手を裏切り続け驚きを与える万博的仮面劇により存在の大いなる連鎖という上下の円環を見せつけ、純血と外来の恐怖の関係を揺さぶる。
2013/03/14
つまみ食い
コーネル大学での著者の学位論文が元。著者自身のポーの読みの鋭さもそうだが、非常に厚いポー研究の先行研究(といってもこの出版から40年近く経った今さらにその厚みは増してるが)ガイドとしても有用
2022/04/13
水紗枝荒葉
1980年代以降の文学研究で強い勢力を持っているイデオロギー批評の方法でポウを論じた本。それは例えば、疑似科学も心霊主義も時事話題として積極的に取り入れた芸術家=詐欺師としてのポウであり、南部貴族主義ないし植民地主義にどっぷりつかりインディアンと黒人を恐れたポウであり、より売れるため様々なジャンル/約束事の開発および混淆および搾取および剽窃を行ったどこまでもジャンルに意識的なポウである。イデオロギー批評のお手本としても読める。
2022/10/20
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