漱石論――21世紀を生き抜くために
漱石論――21世紀を生き抜くために / 感想・レビュー
shinano
漱石作品のテクスト論考的読み解きです。漱石が生きた時代を軸に19世紀末から20世紀(W.W.Ⅰまであたり)の西洋先進諸国が文明を武器にした国家戦略と、西洋諸国と対等地位を獲得しようとする日本と日清日露戦争などを諷刺する漱石文学を見る。世界史での帝国主義的資本主義、市場拡大政策でのアジア圏植民地化、肥大してゆく個人主義が国家権力の統制を受けナショナリズムのもと国家間紛争へ向かってゆく姿を、的確に透視する漱石があった。しかし、私にはやや恣意的な読み込みとも思えてしまうところもあった。
2010/10/23
s_mirai
漱石文学について「戦争」「ジェンダー」「メディア」など、今日的なテーマから読み解いた作品論の集成。テクストの言葉を丹念に拾い上げながら読み進めていく様にまずは感心。中では、「こころ」を先生サイドから読みとくとどうなるかという部分が「こころ」論に含まれており、大変興味深く読めた。また、19-20世紀という時期だからか、「帝国」と「植民地」という言葉があちこちに散りばめられており、そこも気になった。
2010/06/09
6 - hey
資本主義の限界などがささやかれている今、資本主義の不安を描いた夏目漱石の作品はいま改めて読み直すべき…というのがこの作品のメッセージ。しかし、今一つ頭に入ってこなかったってのが正直なところ。
2013/06/09
SY
テクスト論を「古色蒼然」と安易に呼ぶ向きもあるが、そう言う批評家に限って記号の読解に彼ら自身のどうでも良い恣意性が見てとれて不快になる。 フィクションを批評的に読む技術の基礎として、テクスト論は必須だ。 初学者向けに言うなら、例えば非常に作家性が高く抽象度の高い作品に触れた折、その解読のツールとしてのテクスト論の有効度は非常に高いのだ。
2017/05/17
私的読書メモ3328
評論によって露わになるのは、される作品ではなくする評者である、というのは良く知られたところですが、それにしても本書は特に合致しています。現代の読者には不如意となっている、作品当時の時代背景を教えてくれるのはとても有用なのですが、どうにも著者自身の主義思想が強く匂います。文章も回りくどく、牽強付会に感じられる個所も多くて、人文科学自体に疑義を抱いてしまうような一冊でした。端的な事実のみ参考にして、作者の言い分は聞き流すぐらいの読み方なら有用かと思われます。
2019/09/13
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