吉本隆明がぼくたちに遺したもの
吉本隆明がぼくたちに遺したもの / 感想・レビュー
ころこ
二人の吉本評は一致しています。高橋は、吉本が「正しさ」とは何かを突き詰めた思想家だといいます。加藤は、輸入学問で日本人を考えてきた日本において、吉本が世界のことを根源的に考えてきたはじめての思想家だといいます。ここには、社会的なメッセージとして意味あることの成否を問うているのでないことが分かります。二人にとって、結論が正しいことを超越して、同時代のその時点で粘り強く考えた吉本の態度こそが「正しい」と感じています。「吉本は無謬の人かと思っていたが、実は誤謬の人だった」、間違ったから今の吉本がある。
2019/02/17
壱萬参仟縁
一見正しそうに見えるけれども、思想やことばを殺してしまうことになる。吉本さんは最初期から、その問題に取り組んでこられた(26頁)。吉本さんの本で、大学生の評判がよかったのは『吉本隆明が語る親鸞』だったという(28頁)。吉本さんは、ある意味で原発推進派(41頁)というのはよくない。思想家が死ぬと、思想はもう一度、生きはじめる(52頁)というのは、鶴見俊輔さんの作品を読み直すことで実感してみたい。戦後最初の単著は『高村光太郎』飯塚書店、1957年。完全に誤った高村を取り上げ、その淵源を極めた1冊(66頁)。
2015/11/16
猫丸
殺人までもあえてする教団であるがゆえにオウム真理教は抹殺すべき対象であり、その教義に耳を傾けるのは時間の無駄である、との共通認識が社会を覆ったとき、吉本さんは「それは違う」と言った。「二度と悲惨な事件を起こさぬように」という理由など付けたら嘘になる。思想家としてオウムの教義自体に一縷の可能性を見たのだ。「そうは言っても社会規範の維持が優先だろ」という人には「何か浮かない気分」「そこはかとない居心地の悪さ」が感じられないのだろうか。であるなら、もはや吉本さんや僕と世界の捉え方がまったく違う。
2024/08/14
amanon
以前から吉本隆明が「反反原発」の立場を表明しているということに納得がいかなかったが、本書を読んで、納得はできなかったが、ある程度理解はできた気がする。そして、本書の著者高橋、加藤両氏を初めとする所謂団塊世代にとって吉本がどれだけ大きな存在であったかということを改めて知らされた次第。世間で是とされている物に対して、あえてしかも断固として否を唱えるという吉本の姿勢は、時として愚直に映るのかも知れないが、しかし、そこにはある種の凛とした清々しさが感じられ、そこがファン心理をくすぐるのに違いない。
2013/07/14
ひろゆき
著者二人より一世代下の私の世代では学生時代、吉本隆明はもう読まれなくなっていた。なによりもその後に吉本のオウム真理教への賛美、反核運動への罵倒などのとんでも論理の噴出。その稀少さ故にマスコミから多少は商品価値を持つものと位置づけられていたのが、さらに私の印象を悪くし、結果は迎合のみが目立つ、うさんくささしか感じなかった。第一印象は大事で、初めに眉をひそめたら恋も始まらない。吉本隆明にいわば恋した世代に私の蒙を啓いていただけたらと思ったが、ダメでしたね。
2017/04/21
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