飛び込み台の女王 (STAMP BOOKS)
飛び込み台の女王 (STAMP BOOKS) / 感想・レビュー
星落秋風五丈原
ナージャとカルラは、ドイツのスポーツ・エリート達が通うえりすぐりの学校にスカウトされた。本編は天才肌カルラその人ではなく、傍観者でありいつもロッカーを分けあって使っていたほど親しかった努力家ナージャの語りにより経緯を明かす。終盤でカルラが「‘自分にはもう背負えない重いもの’をナージャに渡した」と、自分が見た夢の事を話す。ナージャのカルラからの呪縛が解けた祝福すべき時なのか、或いはカルラにかけられた才能という呪いをナージャが新たに引き受けてしまった憂うべき時なのか、その判断は読者に委ねられている。
2017/08/06
ぱせり
子どもたちは、ときには仲間の不調を喜び、好調を嫉妬する。それを醜いと思うナージャを幼ないと思うのは残酷だけど、この道を真剣に進むなら、結局、自分はたったひとりなのだ、ということをしっかりと胸に刻むしかないのだろう。飛び込みの美しいフォーム、静けさが、文章から伝わってくる。息を呑んで、この美しさ・静けさに結晶する、成長への激しさ・厳しさを見守る。
2018/01/27
Olga
思春期前半の少女が主人公のスポーツ小説として、これまで読んだなかでベスト。 訳者あとがきによると、執筆理由について作者は「スポーツに関する、まともな文学が存在しなかったからです。専門的に正しくて、ロマンチックすぎなくて、まじめにスポーツを描いていて、そのうえ、よく書けている本を、わたしは一冊も知りません。それを変えたかったのです」と語っているが、この本にはそのすべてがある。
2017/08/12
くるり(なかむらくりこ)
13歳の少女の危うさは、最高7メートルの高さからプールに飛び込むこの競技にどこか重なる。競技場面はけっして少なくはなく精緻な描写なのに「スポーツもの」の熱や興奮はない。カルラとナージャの関係も秘密めいた空気を帯びていて、友情でもライバル意識でも恋でもない。その独特の抑制が、ラストで一気にダイナミズムに転換する。カルラが飛び込み台の女王だった理由、カルラに勝とうと思ったこともないナージャが今も競技を続けている理由。すごい、これは児童文学でしか書けない物語。リュック、物理、世界中のすべての時間。深い深い哲学。
2017/01/28
鳩羽
飛び込み競技からスカウトがきたナージャとカルラは、そのままスポーツ・エリートの通う体育学校に進学する。寡黙で何を考えているか分からないカルラだが、飛び込みは誰よりも上手く、ナージャはそんなカルラに嫉妬することもなく、面倒を見るようにして付き合っていた。…べたべたしてる訳ではないのに不思議な一体感のある二人、その彼女たちが離れるとどうなるのかという話なのだろう。大会で優勝しても、インタビューで新聞に載っても、華々しい感じがせず、短い人生、何をしてもそんなに変わらないというような達観すら感じた。
2016/12/11
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