夜明け前 全4冊 (岩波文庫)
夜明け前 全4冊 (岩波文庫) / 感想・レビュー
kthyk
「読みメ」にこの書をアップしていなかったことに気がついた。学生時代、辻邦生や北杜夫を読み、マンを知った。そして「ブッデンブローク」や「魔の山」に触れ、藤村の小説を数多く読むようになった。時代の変容にあってのドラマチックなヒーロー的人間たちの悲喜劇、それが日本の小説の定番だが、漱石と藤村は違っていた。英国に渡った漱石は「個人主義」に拘ったが、フランスに逃亡した藤村はあたりまえの人々の「生」に関わった。曖昧で、矛盾ばかりの登場人物をあるがままに淡々と描き、「詩」を浮上させる。それが藤村であり、「夜明け前」だ。
2022/06/05
yamahiko
維新の激動期をとおし、純真な魂を持った一人の国学の徒の生き様が見事に描かれている傑作でした。 真っ直ぐな人の生きにくさが、当時より、深刻になっていると感じています。
2022/03/10
リトロ
朗読CDで読了。維新の激動の中、信念が時代の波に呑まれてしまった半蔵が哀れでならなかった。精神も病み、最期も座敷牢とは……。
2024/02/29
荒野の狼
主人公以外で、魅力のある登場人物は、主人公の長女の「お粂」で、モデルは藤村の姉の「園」。お粂は半蔵譲りの実直な若い女性として描かれており、結婚問題などに翻弄されながらも健気に生きている姿勢には共感するところである。ちなみに園は、藤村の「家」では「お種」、「ある女の生涯」では「おげん」のモデルになっているが、「おげん」は、設定も父親譲りという点も「お粂」そのもので主人公。「ある女の生涯」は数時間で読める短編なので、「夜明け前」の後日談として読んでおきたい(出版されたのは「夜明け前」が後であるが)。
2022/07/13
ピンガペンギン
松岡正剛さんが「日本文化の核心」でゼッタイの必読本とされていた本。電子辞書で何のことだか不明な習俗語や言葉をひきつつ読んだ。藤村の父がモデルの青山半蔵が時代遅れになった国学を実践すべく励むが、次第に維新後の日本社会に絶望して精神を病むまで。過去の歴史の中に入りこんでその激動を体感するかの様な読書体験。半蔵さんはとにかく一生懸命に生きた。最期は悲劇的だったけれど。隣家の親友との和歌のやり取りも印象深い。その方も早死にされた(その人も実在の人物がモデルかは知りません)。
2020/01/26
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