歴史小説論 (同時代ライブラリー 47)
歴史小説論 (同時代ライブラリー 47) / 感想・レビュー
harass
大岡昇平の歴史小説の評論を独自にまとめた本で、後半の森鴎外の歴史小説についてがいろいろおもしろい。 『歴史其の儘』を謳う森鴎外の歴史小説が『都合よく』『捏造』してあることを指摘する。主に『堺事件』を取り上げ、鴎外蔵書の史料と内容の突き合わせをやっている。小説として細かい変更は必要だが省略・変更部分などの指摘と推理が、軍医総監鴎外の『体制イデオローグ』を浮き上がらせる。スリリングな知的遊戯でニヤニヤしつつ読みふけった。 この手法はバルトのテキスト批判の見事な実践だと読後に気がついた。解説は蓮實重彦。
2014/09/19
Toska
正直、自分などの手には負えない理論的な細目が多かったが、腑に落ちたポイントもいくつか。中国では古くから神話や叙事詩を排した歴史記述の伝統が成熟しており、日本もその直接的な影響を受けている。日本の歴史小説に奇妙な客観主義、文献主義が見られるのはこのためだという。歴史学者は創作に寛容であるのに、寧ろ作家の方が「事実」にこだわっているとの指摘は興味深い。
2023/05/08
モリータ
◆1990年刊。1982年岩波書店刊『大岡昇平集14』を再編集したもの。1964~1975年までの著者の歴史小説に関連する論13篇を収録。ふと「堺事件」など鷗外の歴史ものを再読したのでついでに読む。◆第一部中、「歴史小説の発生」~「現代史としての歴史小説」の6篇は連載によるものだが、学術論文ではなく、各篇のつながりも一篇の内容も読み取りにくい。続く独立の解説「歴史小説論」の方がわかりやすかったのと、小谷野敦の『リアリズムの擁護』『現代文学論争』の大岡昇平論を読んで大岡の立場、言いたかったことが理解できた。
2020/06/18
saladin
”歴史其儘”か”歴史離れ”、どちらのスタンスを取るのか。これは確かに歴史小説を扱う際に悩むところなのだろう。だがこれは当然ジャンルにもよる。剣豪小説や伝奇小説などに”歴史其儘”は求められないだろう。歴史はリアリティを増すために背景として描かれるだけのもので、読者はそれを分かった上で読んでいる。問題なのは、まるで”歴史其儘”であるかのように見せかけながら意図的に歴史を捻じ曲げて書かれている作品。これは読者を誤った方向に導く可能性がある。だからこそ、執拗に森鷗外の『堺事件』を批判しているのだろう。
2017/06/25
寛理
☆☆☆☆☆ 俺のここしばらくの大岡への傾倒は、この文庫本の蓮実の解説を通したものだと改めて実感。
2019/08/15
感想・レビューをもっと見る