曾根崎心中・冥途の飛脚 他五篇 (岩波文庫)
曾根崎心中・冥途の飛脚 他五篇 (岩波文庫) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
『曾根崎心中』は、近松世話浄瑠璃の初作。その後の24篇に及ぶこの分野の原型となっている。主人公の徳兵衛、お初は晩年の最高傑作『心中天網島』の治兵衛、小春の造形にほぼそのまま直結するし、心中へと収斂してゆく劇構成もそうだ。また「天満屋の段」における、お初⇔九兵次(横軸・虚構)、お初⇔徳兵衛(縦軸・真実)は実に見事な立体構造を成す。なお、現在の文楽では二人は美しくもあっけなく死んで行くが、原作では「断末魔の四苦八苦」と凄惨な苦しみの末に死ぬのである。けだし、近松は死を描くことにおいて生の重みを逆照射した。
2013/12/27
ケイ
『曽根崎心中』のみ。「おはっちゃんは恋のために死んだけど、徳兵衛はそれだけではない。自分が追い詰められてたから」と読友さんが語るのを聞いて、どうしても読みたくなった。文楽にも最近興味を持ちはじめていたから。彼女のおすすめ通り、まずは原文に挑戦。なんとなく伝わってくるも理解不十分なのは間違いない。角田さんの『曽根崎心中』を読んでから、もう一度こちらに帰ってきたい。
2016/07/29
毒兎真暗ミサ【副長】
岩波文庫の『曽根崎心中』はまず当時の文楽の繪面から始まる。その印象を刻みつけながら、詞章が流れていくその様は、まるで浄瑠璃をその場で鑑賞しているような迫力。狂しさ。百八の煩悩の鐘と共に。人間の欲に引きずり込まれた二人の男女の魂が燃える。喉を切る。抉る。その意味するところは命懸けの「潔白」。だからこそ、三味線と詞章の音が破滅のように切り裂いていく。この夜を。
2023/12/31
はちてん
九月の文楽公演(東京)のために予習復習。演目は冥途の飛脚。まさに声に出して読みたい日本語。
2012/09/16
syaori
縁語や掛詞を多用した文章が美しいです。基本は七五調なのですが、七五調で固め切っていないところもある種のリズムを生んでいるように感じました。この本に収められた物語の主人公たちは袋小路に入り込み、涙を流して死を選び、死に場所を求め彷徨います。一分を立てるために破滅する男たちと女の情と世の無常と、そんな彼らを美しいともあわれとも思ってしまうのは、彼らが愛や名誉、または義理を命より重んじる一つの日本的な情の世界を体現しているからなのでしょうか。『曽根崎心中』『心中重井筒』『冥途飛脚』が面白く、印象にも残りました。
2016/08/08
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