山椒大夫・高瀬舟 他四編 (岩波文庫 緑 5-7)
山椒大夫・高瀬舟 他四編 (岩波文庫 緑 5-7) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
「山椒大夫」は、周知のように説経浄瑠璃「さんせう太夫」を底本とした翻案小説である。典拠との大きな違いは、以下の諸点を捨てたことにある。①金焼地蔵の御本地の物語、②数々の奇跡、③自力では動けなくなった厨子王を土車に乗せ、民衆たちが次々と都送りをする場面(説経「をくり」にも同様のシーンがある)、④竹鋸による復讐のシーン。これらはいずれも中世色が濃厚であるため、捨てたこともわからないではないが、この物語の本質はむしろこちらにこそあった。では、これらを捨てたことで近代小説になり得たかというと、それもまた疑問だ。
2016/05/29
ケイ
鴎外の『大塩平八郎』の最後に述べられていた自身の見解がとても良かったのを覚えている。高瀬舟の最後にもある考察からも、鴎外の真面目で情が深く見識ある考え方がよくわかる。『最後の一句』『じいさんばあさん』でも、彼の考え方がよく見えていい。人とはどうあるべきかをよく考えた人だったのだろう。安楽死はいかにあるべきか、人は人をどう裁くか、死罪を申し渡すにはそれだけの吟味をしたのか、人の幸せとはまた夫婦の幸せとは何か、彼はといかけているのだが、その問い方が優しく、読む者を微笑ませる。
2014/12/10
molysk
「山椒大夫」。人買にさらわれて、母と離ればなれとなった安寿と厨子王。姉の献身と神仏の加護のおかげで、厨子王がふたたび母を見出すまでを描く鴎外の文体は、淡々としていながらも、同時に姉弟と親子の感情の昂ぶりを感じさせる。「高瀬舟」。弟殺しで遠島に処せられた男が、刑吏に舟中で語った罪のいきさつ。自らの意思で命を絶とうとして果たせず苦しむ弟に、兄としてなせることは何だったのか。従来の道徳はそのまま置けと命じるが、助からぬならば楽に死なせよという倫理もある。軍医であった鴎外は、安楽死の考えを大正の世に問いかけた。
2022/03/21
GaGa
中学だか高校だかで、この作品集に収録されている「最後の一句」という作品が国語の授業で出た。もう、正直訳がわからず、周りの奴らもその難解さに頭を抱えていた。そんなある種のトラウマを抱えて読み返してみると、今ならうっすらと判る気がする。でも、やはり十代で理解するにはさすがに難しすぎるのではないか。でもお蔭でこうして読み返してみるきっかけにはなったが(笑)
2010/11/30
Y2K☮
森鷗外。「舞姫」以外は好きじゃなかった。横文字が鼻につくという理由で(笑)でも納得した。まだ日本語として熟れていない概念が多い時代だったのだ。安楽死や献身など(現代でも尊敬とリスペクトは微妙に違うかと)。表題作よりも「じいさんばあさん」が巧い。時間軸の効果的な使い方を学べた。「寒山拾得」は拍子抜け。やや筆を殺し過ぎ。解説に感謝。120点から落第点まで幅の広い六編。商業主義を嘲笑う様な完成度のバラつきが逆に頼もしい。耐え凌いで天寿を全うする反逆の作家が居てもいい。28歳で死なずともロックはずっと歌えるのだ。
2019/02/17
感想・レビューをもっと見る