金色夜叉(上) (岩波文庫 緑 14-1)
金色夜叉(上) (岩波文庫 緑 14-1) / 感想・レビュー
みっぴー
鉈とか持って追いかけてくる話ではなく、婚約者の宮を金持ちに奪われた貫一の復讐劇です。もう、本当にベタです。ベタベタです。高利貸しになると同時に人間を辞めて社会へ復讐を誓う貫一ですが、冷徹、冷酷、冷血ぶりが凄まじい。かつての学友からも容赦なく取り立て、畜生と呼ばれようが一向に意に介さない貫一は、正しく金色夜叉。このモンスターを生み出したのは彼を袖にした宮ではなく、社会全体という気もしないでもなく…下巻へ続きます。
2016/06/19
SIGERU
「今月今夜の月を」という、熱海の松を舞台にした貫一お宮の場面で知られる『金色夜叉』。あの台詞は、新派演劇独特の見得かと思いきや、原作はさらに上を行っていた。お宮に裏切られたと知った貫一の、怒りに任せた啖呵がすさまじい。「ちええ、腸の腐った女!姦婦!!」「間貫一の男一匹はな、大事の一生を誤ってしまうのだ」。まだ学生なのに、鉄火場の兄哥の如く伝法な口調が何とも可笑しい。綺羅を盡した美文調といい、誇張された愁嘆といい、江戸戯作文学の正統を継いだ硯友社派の面目躍如。流麗な文藻が眼もあやな、息もつかせぬ名作だ。
2021/11/27
ソングライン
主人公寛一の冷徹な金貸し業への執着と頑なな鴫沢家への拒絶を生んだのは、宮への計り知れない愛の裏返しなのでしょうか。人に、会社に、世間に恨みを抱いた普通の人間にはできない寛一の徹底振りに、強い共感を抱き、文語体にも関わらず、夢中で読み進めました。上巻を読んだだけですが、現代版金色夜叉の「黄金夜会」の主人公が自死を選んだ理由が分かる気がしました。真実の愛を失うことは絶望なのだと。次巻へすすみます。
2018/10/30
ハチアカデミー
評価は下巻読了後。親を失い孤児となった貫一は、父の友人の家に引き取られ、家の娘であるお宮とともに生活をする。互いに気心も知れる二人は、やがて将来夫婦となることを誓う。しかし、美貌の持ち主のお宮の気持ちに浮気心が生まれ… と、概ね粗筋は聞いたことのある作品である。が、粗筋を知っていながらも頗る楽しめるのが名作たる所以。とかく有名な足蹴の場面だけでなく、まるで映画でも見るかのような場面が多く、小説たること、物語たること、つまりは作り物であることを恥じない饒舌な語りがお見事。この作品を過去の遺物にしては駄目。
2012/05/31
藤月はな(灯れ松明の火)
金に翻弄され、愛する人の心が離れ、人間不信となり、金色夜叉となった貫一は冷酷になろうとしても結局、自分の理想に囚われ、満たされない様に切なくなってしまいます。宮の父が貫一に宮と別れるように薦めるところで「欲に駆られた狸爺め・・・」と舌打ちしたかったのですがまさか、宮が心変わりしていたとは!?まさに無自覚な悪女だよ。恥さらしな所を見られ、恋人に許しを請うが蹴っ飛ばされるシーンに「もっと苦しめばいいのに・・・・」と思ってしまいました(←恐っ)文体が会話は現代と変わらないのに文章は古文調が新鮮でした。
2011/03/08
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