藤村随筆集 (岩波文庫 緑 24-7)
藤村随筆集 (岩波文庫 緑 24-7) / 感想・レビュー
翔亀
六冊の随筆集から十川信介が編集したもので、言葉・春・人生・旅・同時代人への追悼とテーマ別に並べてある。「藤村文明論集」の姉妹編。藤村は、透谷の様な先鋭ではなく、漱石や鴎外の様な近代と格闘する文明論者でもなく、かといって荷風の様な日本情緒に浸る者でもない、いわば"中庸"さがある。文章は巧いし描写は的確だが、要は地味なのだ。しかし、その中庸さは決してどっちつかずの妥協の産物ではなく、理想と現実を突き詰めた格闘の上であったことが、このどちらかというと舌足らずの断片的な随筆から滲み出てくる。こういうのは好みだ。
2016/11/07
モリータ
「太陽の言葉」「春を待ちつつ」の二つに、涙が出るくらい勇気づけられた。
2013/08/27
ダイキ
(1/2)作家の作品には何れかの季節が感じられるものだと思う。それは夏を舞台にした作品を多く書いているから夏、冬が多いから冬というものではない。その作家の文体から滲み出てくる風であり、光である。例えば漱石の小説からは春の花開いたばかりの桜を、釋迢空のうたからは鬱々とした夏の日射しが、私には感じられるのである。私が藤村の作品から感じたのは、秋の風景であった。激しくも優しい燃える様な紅葉、妻を恋求めるさ牡鹿のなき声、さやけき月の光に照らされ、まだどこかに夏のぬくもりを宿す風が吹く薄野。全てが終わりを予期
2014/12/27
愁
個人的に藤村にハマるきっかけになった「樹木の言葉」が収録されています。これ好きなんですよね〜。随筆のベスト収録版なので、何かしら心に残る物が見つかると思います。後半の文学者 知人に対する回想記も興味深いですね。
Ted
'89年3月刊。△主要作品の殆どが自伝小説なので、それらを読めば自己を投影したと思われる登場人物を通して藤村像はある程度わかってくるのであるが、それは藤村が自分を突き放して描いた虚像にすぎない。それでは藤村自身はどういう考えを直接的に表明しているのかを知りたくて随筆集を手に取るが、あまり大したことは言っていない。代々悪癖が遺伝する旧家に生まれ、自分にも受け継がれている制御しがたい「業」に対する恐ろしいまでの執着心と粘着性が小説という形で昇華しただけで、それ以外に才のある人ではなかったのかもしれない。
2017/05/05
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