夜叉ケ池・天守物語 (岩波文庫 緑 27-3)
夜叉ケ池・天守物語 (岩波文庫 緑 27-3) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
三島由紀夫と澁澤龍彦の二人がこぞって絶賛している。まさに鏡花戯曲の最高傑作だろう。お芝居は、幕開きの花釣りの場面から美しく、そして幻想的だ。亀姫の訪問と図書之助とのかりそめの恋と、物語のプロットはシンプルなのだが、それが却って幻想性を高めている。舞台は姫路城天守閣第五重。登場する富姫も亀姫も、図書之助も皆ことごとく美しい。とりわけ富姫の妖艶さは、この世のものとも思えない(実はこの世のものではないのだが)。シネマ歌舞伎では富姫に玉三郎、亀姫に中村勘太郎、図書之助が海老蔵と、なんとも豪華なラインナップだった。
2013/04/02
ehirano1
「天守物語」が印象に残りました。幻想的ではありますが現世と魔界なので魔界の天女(と云っていいのか?)のすることが結構エグくて、サロメの雰囲気を感じます。かと思ったら、天守夫人と美丈夫がまさかの恋に落ちて、悲劇の後に真の愛が生まれるストーリー展開にはシェイクスピアの雰囲気を感じました。東洋の作品なのに西洋の作品を感じる稀有な作品でした。
2023/07/04
Willie the Wildcat
年初に鑑賞した新春歌舞伎『姫路城音菊礎石』から興味をもった『天守物語』。三島由紀夫氏も絶賛したとのこと。”骨格”で語るのであれば、戒律に縛られたヒトの心を放つのは、天守の魔物ではなく ”桃六”?!といったところか。侍女と女童らが秋草と戯れ、蝶が舞う場面なども 風流。『夜叉ヶ池』も、もちろん負けてない!鐘ヶ淵の謂れに、悲恋と友情。2代目・弥太兵衛、男だなぁ。冒頭の”露”の件が印象的。「生」とは何かから本質を問い、佳境に繋ぐ。戯曲として著名なだけのことはある。
2019/01/15
雪うさぎ
泉鏡花の戯曲と藤子不二雄のマンガはよく似ていると思う。但しパターンは逆になっている。藤子は別世界の生き物を一般家庭に居候するという形で描き、鏡花は人間の方が妖怪の世界に取り込まれていくという形で描く。人間世界の醜さに比べ妖怪の棲む世界は美しくむしろ人間より人間らしいと言える。それはドラえもんが呆れながらものび太に共感していくことと同じことではないのか。根底にあるのは人間らしさ。人間が持つ優しさや勇気、良心という善の心に訴えているのだ。だからこそ、時代を越え共に愛され続ける作家であり漫画家なのだと思う。
2015/11/01
ひめありす@灯れ松明の火
登録2000日目、感想2277件、読んだ本2777件のぞろ目に選んだのは、大好きな「夜叉ヶ池・天守物語」です。『文学少女』の中で出会った一冊。だけどそれと関係なく、私の人生の中で欠かせない一冊になりました。作品としては天守物語の方が良質だと言われるし、私も天守物語の方が好きだけど。代わりに夜叉ヶ池にはいじらしさと拙さと可憐さがあります。百合さんの可愛らしさには姫君達も敵わないですよ。とろりとしたわらび餅のように滑らかで、だけどぬぷぬぷと人に絡みついて離れない鏡花の情念の描き方が美しい。夏の宵に相応しい一冊
2015/06/27
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