宣言 改版 (岩波文庫 緑 36-3)
宣言 改版 (岩波文庫 緑 36-3) / 感想・レビュー
双海(ふたみ)
深い友情に結ばれる青年AとBは、ひとりの女性をめぐって恋と友情の危機に直面する。が、恋に破れたAは苛酷な運命に対して男らしい決然たる態度を示し、恋を得たBもまた己れの真実をかくすことなく厳しい宣言をもって友に応える。妥協的な日常性の哲学を見事に打破した作者(一八七八―一九二三)初期の、書簡体で描いた思想小説。(カバーより)
2014/07/31
冬見
理知的に問答を交わす男二人の書簡体小説。武者小路実篤の『友情』を思い出した。死云々の思想に関するくだりはこの前読んだ有島武郎「運命と人」と重なる。互いに響きあうように存在している姿が良い。二人の友情は、互いの思想、意志、矜持への尊敬によって支えられている。互いの存在がある種の緊張感を生み、その緊張感こそが二人の友情を深め、より強固なものにしているように見えた。結果的にBはAからY子を横恋慕したが、それはBの思想、意志、矜持の実践によるものだった。有島文学の思想がよく表れた作品であると感じた。
2019/03/31
桜もち 太郎
AとBとY子の三角関係。A、B、Yの告白。一番得をしたのはBかな。哀れなAと妹のN子。Bは言い訳がましい告白。Bと結ばれるであろうY子は優柔不断。よくある恋愛物語だが、さすがに日本語は美しい。「空虚な世界は、さびしく、寒く、果てしなく広がった」「一秒が過ぎ去ったのか、永遠が過ぎ去ったのか、僕にはわからなくなった」、これはもう絶品だ。それにしても宣言ってくつがえるものなんだ・・・。
2015/04/10
澄川石狩掾
何度目かの再読。 「Y子の手記」ではっきりと示されるY子のAに対する拒絶を読む度に、私自身の失恋を思い出して泣けてくる。それはともかくとして、この小説の大きな特徴は、既に指摘されているように明治から大正に元号が替わる時期を舞台としているにも拘わらず、西暦で表記されているために、明治天皇の崩御や乃木希典の自殺など無関係に進んで行く点にある。また、名前もA、B、Y子と具体的な名前ではない。これらの表現から、時代を超えて一般に長距離恋愛にはどのような難しさがあるのか、この問題について考えさせられる。
2020/07/07
てれまこし
武者小路の『友情』と同じく、愛情と友情の板挟みの三角関係の話。というと陳腐なんだが、ここに大正個人主義が西洋の理想主義から受けとった遺産がある。日本人にはわかりにくいが、肉欲や世間体を越えた愛は神への愛と重なり、三角関係が苦しみながら高みを目指す人間性のドラマを再現する。つまり、恋愛ごときに悩むウブな若者が、世間の常識に従う大人より霊的な人間となる。自然は精神を通じて生命化・神秘化される。年の功で不感症になった賢人ではなく、自然と一体の赤子こそが人間性の鏡であり、その純真さを取りも戻すことが人類の真の目的
2019/02/04
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