入江のほとり: 他一篇 (岩波文庫 緑 39-2)
入江のほとり: 他一篇 (岩波文庫 緑 39-2) / 感想・レビュー
michel
「微光」「入江のほとり」の2編収録。「微光」は二十歳の妾奉公の女、お國の生活が描かれる。はかない夢を持続けているが、暗い生活はどこまでも続くような…虚無感。「入江のほとり」は、岡山の入江のほとりの古めかしい家で、小学校の代用教員をしながら何年も独学で英語の学習を続けてきた辰男。そういう英語の独学いかに無駄骨折りであるかを、長兄の榮一などから諭されるが、それでも侘しい夢を捨てる勇気もない。榮一の去った後、辰男はこれから先の生きる術を見つけられただろうか。愚かな、はかない、無駄な夢ーそれが人生。
2023/01/10
葛西狂蔵
所謂自然主義と云えば聞こえはいいが、現代でも通用し得るものか懐疑的な気持ちで読んだ。意外と普遍性や強度を保っているのには驚いた。微光より入江のほとりの方が個人的に好み。無為な独り習いに執着する姿が、現在でも通用し得るリアリティと人間の不合理さを醸し出している。微光の方は、どうも類型的な俗っぽさが目に付いてハマり込めなかった。
2015/09/05
風鈴
何か大きな起承転結があるわけでなく、こんな話のあり方があっていいんだな…と許された感じがした。けれども、どうして書こうと思ったのか、何が書きたかったのかまでは読み取れないまま終わってしまった。
2021/05/30
坂津
正宗白鳥の(主に田山花袋に関する)評論は幾つか読んでいたが、彼の短編小説を手にするのはこれが初めてだった。文章自体は乾いていて比較的軽めな印象なのに、行き場のない閉塞感とどうしようもない虚無感が常に付きまとって読後感は重苦しい。巻末の解説で述べられている通り、『微光』のお國や『入江のほとり』の辰男のような不器用な生き方が、ニヒリストの作者の分身として位置づけられる朝川や榮一といった人物の視点を介することで、あるいは対比させられることで、より冷徹に描写されている故かもしれない。健康な精神状態で読みたい一冊。
2018/02/18
散歩中
自然主義文学久しぶり。 正宗白鳥の小説は初読。 人生の行き場のない暗さと日本の湿っぽい生活の断片2編。 硬く引き締まった文で過不足なく描写され、本の中の人々の横に自分も座っていたような感じがした。 歳を取ってみると懐かしい味わい。
2022/09/27
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