腕くらべ (岩波文庫 緑41-2)
腕くらべ (岩波文庫 緑41-2) / 感想・レビュー
NAO
花柳界でも近代的な合理主義や経済観念がまかり通るようになった大正初期の作品。新橋を舞台に、古風な駒代、色仕掛けの菊千代、金持芸者君竜との腕の比べ合いで、古い時代の気質を色濃く残した駒代は二人の馴染みに捨てられてしまうのだが、荷風は、駒代を捨てた男性たちを皮肉な目で描き、一方で、古きよき花柳界の姿を遺しておこうとする古手の小説家や、老いぼれ講釈師である茶屋の亭主の粋を求める姿を描く。菊千代や君竜ほどには新時代の流れに乗れない駒代を、荷風は「ものの哀れ」を感じる心があるからだとし、愛おしく思っているのだ。
2022/05/01
SIGERU
腕くらべとは、芸者たちの生存競争。新橋という古参の花街にも、新世代の波が押し寄せる。かつての粋や意気地をとおす主人公、駒代。豊満な体と放縦な性を武器にのしあがる、菊千代ら新興勢力。客の男たちも海千山千の佞物ぞろいで、愛欲の巷に蠢く男と女の生態が、荷風の雅文によって活写される。腕くらべに敗忸した駒代の孤影は、旧世代が新世代に敗れた現実に他ならない。結末で、彼女に差し延べられる救いも、失われゆく旧世代へ作者が手向けた挽歌。しみじみとした余韻を残す。大正の世態人情を自在な筆で書きつくした、荷風中期の傑作。
2022/05/07
A.T
荷風さん好みの芸者風情は、早くも大正半ばで失われつつあったのか。その後、昭和期の「濹東綺譚」では場末の玉ノ井に昔気質の女をみつけてシンミリしていたが、「腕くらべ」にはまだそれほどの悲壮感はなく、軽快なタッチで大正の当世男女の駆け引きを描いている。
2017/07/17
ヒロキです
男女の性について、文学で書かれた本。 粋だなーと思ってしまった。 大人の風俗恋愛を見せられてる感じ。
2019/10/10
壱萬参仟縁
相手にいいか、悪いか、を尋ねる際の、「能う御座んすか」(81頁)っていう言い方は、時代を感じる。今使うと、意外に悪い気はしないと思う。僕の高校の小林先生はそういうことを言っていた人だった。「うずらの隅」で、「名誉と富と女とこの三ツは現代人の生命の中心」(108頁)。全て持たない不名誉、貧乏、独り身では生命のかけらもないのだろうか。弱っちゃうなぁ。「帰りみち」で、「世間は狭いようでまた広い。冷酷なようでまた極めて寛容な処もある」(156頁)。世間を悪く言う癖もあるが、アンビバレントな世間という見方もあるな。
2013/10/24
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