ふらんす物語 (岩波文庫 緑 42-9)
ふらんす物語 (岩波文庫 緑 42-9) / 感想・レビュー
Tadashi_N
日本に対する諦め、パリに対する憧れ。後ろ髪を引かれるような帰路。
2018/03/22
シロナガススイカ
「すべては皆生きた詩である。」/アメリカを発ちフランスへ渡った荷風の小品集。芸術を愛した彼の歓喜、憂鬱、絶望など種々の感情が心に染み渡る。/あめりかは未読。食指が動かず期間を空けて少しずつ読んでいたら前半の内容が忘却の彼方へ。と言うのも、旅行記かと思っていたら全編がフランス生活の記録ではなくて、途中からフランスが舞台の短編になっている。これが、うーん。なんか全部がうら寂しいんだけども。あとほぼ女だし。荷風は本当にフランスが好きなんだなぁというのと、すこぶる芸術家なんだなぁというのが分かったよ(浅いね)。
2023/05/12
Foufou
『あめりか物語』が厭世を語って尚明るいのに対し、こちらは終始暗鬱たる印象。憧れの地にあることが荷風をして鯱張らせたか、はたまた「再会」にあるように、夢の実現が虚しさを招来したか。いずれ、ボードレールを地でいくdécadenceの体現なのだろう。白眉は帰朝の船上。地中海の夜空を眺めながら西洋文明発祥の秘密に想いを馳せ、紅海の砂漠に対峙して己の影を見つめながら独立不覊の「私」を再確認する。こういう実存的体験を語った日本人ってこれ以前にいたのかしら…。付録のクラシック及びオペラのレビューは今でも通用するレベル。
2019/10/10
きりぱい
「青きサラドの葉の美しや。ナポリの柑子の香しや。アイスクリームの冷たきを啜りたる後の唇は燃ゆるなり。料理は終りしか。否。否二人は、燃ゆる互の唇を味わんとす」(「美味」)詩みたい。好きだなあ。フランス女性との恋愛やパリの情景と、掌編や描写にフランスへの愛が見てとれるけれど、その熱烈なのが、いよいよ帰国となりパリを離れたくない苦渋の思いを綴る「巴里のわかれ」。パリが好きすぎて、次に寄っただけのイギリスがえらい言われよう。
2016/05/06
TomohikoYoshida
今から100年前、新進気鋭の作家となった永井荷風がフランスに滞在中に書いた作品。フランスへの愛情、音楽への情熱、日本に帰国することへの葛藤など、さまざまな思いをものすごい熱量で作品に注いでいる。韻文、散文、文語、口語、雑多な形式でとにかく詰め込んだ作品。アメリカからフランスに入国してすぐに書かれたと思われる、巻頭に収録された「フランスより」の三作は、フランスの美しさを描写しており、まだ見ぬ(そして見ることのできない)100年前のフランスの姿を想像させてくれた。
2020/05/04
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