大津順吉・和解 ある男’その姉の死 (岩波文庫 緑 46-1)
大津順吉・和解 ある男’その姉の死 (岩波文庫 緑 46-1) / 感想・レビュー
カブトムシ
父との不和・三部作である。正義感の強い直哉と、現実主義に立つ父直温(なおはる)の不和は、約16年にわたる長いものだった。「和解」以外の2作は、あまり評判にならず、直哉の希望もあって、新潮文庫は、「和解」のみになっていると記憶している。父との不和について、この岩波文庫は、トータルに理解できるものである。先日、恐らく若い人の「和解」の感想を目にしたが「小学生の作文」という感想は、よく言われることだが、それは「和解」についてではない。戦後の熱海に住んでいた頃の「朝顔」「山鳩」などの作品がそう言われることがある。
Kepeta
引き続きS44年発行の新潮文学集から「大津順吉」と「和解」を読む。主人公の名前は同じ順吉ですし連作と見てよいのですよね?奥さんの名前が変わってるのが気になる... 主人公(志賀直哉自身)は父との深刻な不和を抱えていたが、私自身の経験から言うと、父本人よりも「最初は自分の味方っぽい事を言ってくれる家族も、最後は父の権威に平伏して結局父側に着いてしまう」事に対する怒りと苛立ちの方が実は強いのではないかと感じた。だからこそ「和解」の終盤、きっかけさえあれば案外すんなり和解できたというのは理解できる。
2023/07/16
かもすぱ
志賀直哉の父との不和をモチーフにした変則連作3編。『大津順吉』がブチギレ期、『和解』が雪解け、『或る男...』が不和の回顧。直哉初期の作品で、8年の開きがあるが、文章が洗練されていく過程を感じる。『和解』ではタイトルの通り父との雪解けが清々しいが、中盤の山場である生後まもない長女の死が生々しくてショッキングだった。「父との不和はその時は仕方のないことだった」というスタンスと、「自分にも父にもお互い意地の張り合いだった」という相容れないようで相容れる微妙な感覚が、何となくわかっておもしろい。
2024/06/10
Ted
『ある男、その姉の死』1920年発表。△『大津順吉』『和解』と併せた三部作の1つ。テーマは父との不和で、こちらは架空の姉と弟を登場させ、弟の視点から描いた短編。和解に至る以前の、数々の不和の原因が描かれている。1つ1つはどこの家庭でもありがちなことだが、家長という只それだけの理由で意味もなく強圧的に振舞おうとするようなタイプの親父だったら、やがてはこういう深刻な関係に陥ってしまうだろう。
2015/07/01
読書家さん#mdQf51
山崎正和『不機嫌の時代』を読んで。 祖母との関係性、父との確執の描写が読み応えがあった。性分の相容れなさからすれ違いを重ね気持ちの行き違っていく様がリアル。 「和解」はあるきっかけから関係性が変わっていく様が描かれる。ほんの少しのことで人間関係は大きく方向性を変えていくのだ。 「ある男、その姉の死」は弟という家族内の別の構成員の立場から再構築された作品。和解を経てなお、度々考えるところがあったに違いない。 何度も繰り返し作品化しているあたり、作者にとって、人生の中の一つのテーマだったのだろう。
2021/03/31
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