北原白秋歌集 (岩波文庫 緑 48-4)
北原白秋歌集 (岩波文庫 緑 48-4) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
白秋は青年期から晩年にいたるまで、一貫して歌を詠み続けてきた。それらの成果は多くの歌集として残されたが、やはり『桐の花』にこそ白秋の真髄があると思う。短歌でありながら、あたかも象徴詩を思わせる表現がそこには見られる。例えば名高い「…雪よ林檎の香のごとくふれ」の歌は、雪だけが降りしきる白一色のモノトーンの世界だ。しかし、林檎という言葉はそこに一瞬のあざやかな紅の残影を帯びさせる。まさに新古今三夕の歌の定家だ。しかも、「林檎の香」には、甘くそして切ない、匂い立つばかりの憂愁と哀しみの香りが揺曳するではないか。
2013/03/18
絹恵
出逢ってしまったら、今までの自分を思い出せなくなって、そして世界は発光する。そんな視る世界の色を変える人。それは時に現実という牢獄から解放し、燃ゆる思い出のなかに閉じ込める。特に色への執着を感じずにはいられない。しかし見たい色を見るという自由なあのまなざしは、見せたい色があると伝えることのよう。なお『桐の花』の抄出率は高いけれど、その熱量は胸を締め付ける。
2017/09/25
壱萬参仟縁
桐の花。秋で、「日の光 金糸雀(カナリヤ)のごとく 顫ふとき 硝子に凭(よ)れえば 人のこひしき」(21頁)。秋のおとづれ で、秋思 の、「クリスチナ・ロセチが 頭巾かぶせまし 秋のはじめの 母の横顔」(31頁)。亡き母には半世紀生き延びたことを報告したい。雀の卵 で、「唐黍」の、「貧しさに 堪へてさびしく 一本(ひともと)の 竹を植ゑ居り このあかつきに」(77頁)。「観相の秋」で、「アツシジの聖の歌」で、「寂しくて貧しくましき。
2021/09/25
松本直哉
「春の鳥な鳴きそ鳴きそ」「雪よ林檎の香のごとくふれ」命令形で鳥に、雪に呼びかけて歌う。それらを意のままに操るかのように。春の鳥がなぜないてはならぬのか、雪がなぜ降らねばならぬのか、よくわからない。わからないのになぜか一読して忘れがたい。「な鳴きそ鳴きそ」という調べの良さ。雪と林檎の思いがけない組合せ。一方、晩年になって目を病み、視力と体力の衰えを静かに見つめながら詠んだ歌も深く印象に残った。「眼力(まなぢから)けだし敢なし夕顔の色見さだめむ睫毛触りたり」まつげがふれるほど近づいて見ようとする、花への愛惜
2014/10/16
更紗
「君かへす朝の敷石さくさくと雪よ林檎の香のごとくふれ」の歌を読んだときに、あまりの美しさに衝撃をうけました。他にも素敵な歌がたくさんあり、お気に入りの一冊になりました。
2013/11/29
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