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吉野葛・蘆刈 (岩波文庫 緑 55-3)

吉野葛・蘆刈 (岩波文庫 緑 55-3)

吉野葛・蘆刈 (岩波文庫 緑 55-3)

作家
谷崎潤一郎
出版社
岩波書店
発売日
1986-06-16
ISBN
9784003105535
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吉野葛・蘆刈 (岩波文庫 緑 55-3) / 感想・レビュー

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ヴェネツィア

【蘆刈】タイトルは冒頭の歌「君なくてあしかりけんと…」から取られており、後拾遺のこの歌は「大和物語」にも見られ、世阿弥の「蘆刈」に踏襲されてゆく。ただし、本作の内容とは直接は結びつかない。これに続く後鳥羽院の「見わたせば…」の歌と共に物語の俤として揺曳する。水無瀬川が淀川に合流する中の島での秋の一夜に静かに語られる、十五夜の月が喚起する過去の物語。それはかつて確かにそこにあった三人それぞれの恋の物語である。それもまた月の光とうたかたの川の流れとともに消えてゆく。夢幻能の舞台にもはや演者はいなくなった。

2021/10/13

優希

日本語が美しいのに魅せられました。特に『吉野葛』が素晴らしい。美しい女性、母性思慕の精神が至る所まで細やかに描かれていて、艶かしさを感じます。南朝の血が吉野まで流れているというのもロマンのようです。『蘆刈』は少々奇妙な恋愛が描かれ、艶的な風景に、谷崎の色合いが香り立っていました。女性崇拝の空気が漂う作品。挿絵も含め、2編一緒に読んでこその1つの「芸術作品」と言えるでしょう。

2016/02/16

Shoji

私は、解説は後から読む派です。解説を読んで思うことがあります。なるほど小説とはこの様に読むものなのかと脱帽することしきりです。私の読解力の低さを嘆くばかりです。この『吉野葛』、再読ですが、解説に書かれているような感性で読むことは、私にはまだまだ青二才でした。今でも難路の奥吉野、吉野川の源流近くが舞台ですが、単なる紀行ではなく、語り手の「私」から見た、友人の津村の人間模様、家族愛です。吉野と同じぐらい奥深い物語でした。

2018/11/07

安南

奥泉光『蛇を殺す夜』の参考に再読。蛇殺ヒロインは自称自天王の生まれ変わり。この南朝皇胤の御首伝説は確かに魅力的。作中の私(谷崎本人?)は、このあまりにも魅力的なエピソードに溢れた吉野、南北朝を舞台にした読み物が存在しないのを不思議に思い、自ら着手したいと考えているが(戦前は憚りがあったのか?)今なら皆川博子の傑作『妖櫻記』や、漫画では木原敏江の『雪紅皇子』もある(これなど、まさに谷崎の構想した物語そのものだ)谷崎お馴染みの母恋もので、『義経千本桜』の狐忠信と静の鼓が重要なモチーフなのが嬉しい。

2015/01/07

みつ

先に『少将滋幹の母』を読み、他に母への思慕を綴った作品があったはずと思い、こちらを再読。『吉野葛』は、南北朝末期の歴史から説き始め、20年ほど前に帝大時代の友人津村と吉野を旅行した時の回想記が続くうちに、やがて津村が幼い頃死別した母の思い出を探り当てる話が中心となってゆく。谷崎の絶妙な語り口に引き込まれ、緩やかな文体に身を任せるうちに場面が変わってゆく様を堪能できるのは、同じく川べりの景色の中出会った男の語る回想を書き留めた『蘆刈』も同様。父の出会った別荘の女あるじとその妹との背徳も潜ませた日々の物語。

2024/07/09

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