猫町 他一七篇 (岩波文庫 緑 62-3)
猫町 他一七篇 (岩波文庫 緑 62-3) / 感想・レビュー
こーた
いまの家に越してきてしばらくは、曲がる路地を間違えたりなどして、近所なのにどこだこれ、迷い子!となることがたびたびあった。景色の裏側。異界への入口は生活のすぐそばにあって、しかもその境目はあいまいで、どこからがどっちなんてはっきりとはわからない。本だってそうだ。詩や散文、ことばの創り出す世界のほうが、ときにくっきりとリアルで、真実のようにおもえることがある。電車で読んでいて駅に着いて顔をあげ、あれここはどこだっけ、迷い子!となった日は数知れない。裏と表、どちらが真実だなんてことは云えないのではないか。
2021/05/25
ヴェネツィア
表題作を含む3つの短篇小説と、散文詩等からなる。これらの作品群はいずれも概ね朔太郎の中年期以降に書かれており、諦観と存在への不安を湛えている。そして、それはあたかも寒風の中に一人でたたずむかのようだ。「猫町」は、芥川最晩年の「歯車」にも似た幻視世界であり、それは自己存在の震えだ。また「ウォーソン夫人の黒猫」は、題名からも想像がつくようにポーの「黒猫」を強く意識したものだろう。朔太郎は『詩の原理』でポーの「大鴉」に触れて、詩の翻案の可能性を述べているが、まさしくこの小説は彼のポーへのオマージュであり翻案だ。
2014/06/10
青蓮
以前読んだ詩集が素敵だったのでこちらも。幻想風の短編、散文詩、随筆など18編を収録。「ウォーソン夫人の黒猫」は何となくポーの「黒猫」を思わせるような雰囲気があって楽しめました。散文詩では「郵便局」がお気に入り。不思議な感傷と郷愁があって郵便局とは人と人の交差点、出会いと別れの発着地なのだなぁと感じました。「老年と人生」は何処までも共感できることが多くて、私もそれなりに歳を重ねて来たのだなと少し感慨深い。何時までも若々しくありたいと言う風潮が強い中で歳を取るのも決して悪くないのだなと肩の力が抜けるようです。
2018/07/14
おいしゃん
萩原朔太郎初読みだったが、大好き、この狂気的な世界観!さすがにこれを300ページとかだとキツイが、18編を100ページちょいで、入り込むにはちょうど良かった。もっとも、朝の通勤でこの世界に入り込み過ぎて、クラクラした一日ではあったが…。
2015/03/03
tototousenn@超多忙につき、読書冬眠中。
☆4.0 『猫町』『ウォーソン夫人の黒猫』をはじめ、 幻想風な短篇、散文詩、随想18篇を収録。
2021/02/13
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