井伏鱒二全詩集 (岩波文庫 緑 77-4)
井伏鱒二全詩集 (岩波文庫 緑 77-4) / 感想・レビュー
新地学@児童書病発動中
散文に近いと言えるぶっきら棒な文章から、滲み出す詩情。感傷性と大げさな表現を注意深く避けて、詩情の精髄だけを取り出した詩群だと思う。今回は詩の中に表現された人生のやるせなさが、熱燗の一杯のように沁みた。これからもこの詩集は繰り返し読みたい。
2016/03/14
新地学@児童書病発動中
日本の詩は真面目な内容を持ったものが多いが、井伏鱒二の詩はユーモラスで、読んでいて吹き出してしまうことがある。例えば、電車に乗っていて顎が外れてしまった人に出会う「顎」はかなり可笑しい。ただし、作者は顎が外れた人を突き放して見ているのではなく、厚い同情を寄せている。それは詩の中に出てくる「ほろをん ほろをん」というオノマトペで分かる。ユーモアとペーソスと哀しさが絶妙に混ぜ合わされた言葉。この「ほろをん」を何度でも味わうことで、私たちの人生は豊かになっていく。
2016/12/18
新地学@児童書病発動中
こういう本を文庫で出してくれるから岩波書店は好きだ。およそ詩には思えない散文めいた内容の中に、閃光のように詩情を潜ませる井伏鱒二の手際にしびれる。私達の平凡な生活を凝視すれば、その核には詩があることを教えてくれる素晴らしい本。冒頭の詩の「なだれ」に見られるようなユーモアも大変好み。
2013/04/06
藤月はな(灯れ松明の火)
まだ、寒いがポカポカした陽射しが当たる縁側で梅を眺めながら緑茶を啜るような気分になれる詩集。『左近の桜』(長野まゆみ)で引用されていた井伏鱒二訳の「勧酒」が読めて嬉しかったです。「つくだ煮の小魚」はなんとなく、穂村弘氏が作詞したNHK合唱コンクール高校生の部での課題曲、「メープルシロップ」での「たらこおにぎり=命を食べるという一種のグロテスクさ」という解釈のくだりを思い出しました。「誤診」は心臓肥大が嘘だという理由で「物事に心が動くことが希になってきたから」というのに泣き笑いそうになりました。
2015/03/14
さらば火野正平・寺
先日読んだ『厄除け詩集』がすっかり気に入ったのでこちらもチェック。講談社文芸文庫版に無い詩と解説を読む。解説が2つあって、研究者の解説の他に穂村弘の解説も付いている。近頃そんな文庫が増えたが、いい事だと思う。古人や古典と私達を繋げてくれる人はいつだって必要だ。解説によると、井伏さんの訳詩は元ネタがあるそうだ。『ジョン万次郎漂流記』も『黒い雨』も盗作だという猪瀬直樹説があるが、こちらの訳詩の元ネタは井伏さんの亡父だそうだからちょっとした親孝行である。お父さんもお兄さんも文学青年だったそうだから好環境である。
2019/08/26
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