中野重治詩集 (岩波文庫 緑 83-1)
中野重治詩集 (岩波文庫 緑 83-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
抒情詩人としての中野重治しか知らなかったのだが、どうやら生涯を政治運動と文学とに捧げ、激しく戦い続けた人であったようだ。詩集は前半に抒情詩、後半にプロレタリア詩を収録するが、中野の第1詩集が1931年、第2詩集が1935年とは実に驚嘆すべきことだ。この時代によくこんな詩を発表できたものだと思う。また、詩として見てもその力強さにはうたれるものがある。ただし詩としてもっとも優れていると思うのは「しらなみ」や「歌」などの鮮烈なまでの叙情性だ。ことに後者での「歌うな」と抒情を振り切ろうとする詩人の想いはせつない。
2014/05/01
新地学@児童書病発動中
中野重治の詩には強い怒りが表現されることが多い。解説者はそれを「憤怒」と表現している。再読して私も怒りよりは憤怒が適切だと思った。文学者のような感受性の強い人物だったら、自分の生きている社会に憤怒を感じるのは当然だ。彼が今生きていても、憤怒を感じたはずだ。ただし、憤怒だけでは詩はできない。それを包み込む叙情が必要だ。中野重治は叙情を詩の中に溶け込ませる技量にも恵まれていた。本当は憤怒の詩人よりも叙情の詩人になりたかったのかもしれない。それを断念し、憤怒の詩人として生きたところにこの詩人の誠実さがある。
2016/10/09
新地学@児童書病発動中
プロレタリア文学の詩人として名高い中野重治の詩集。政治的なメッセージが強いのが特徴で、「待つてろ極道地主めら」の詩のように社会制度の矛盾を激しい口調で批判したものもある。ソ連や共産主義のことをテーマにした詩はやや色褪せているのは否めない。ただし、中野重治の場合は抒情詩人としての一面があり、彼の抒情的な詩には時間を超えた輝きがある。中野重治はやはり文学者であり、文学者として感受性によって社会の歪を見抜いて、共産主義に接近していったことが、この詩集を読んで確信できた。
2015/03/18
kaizen@名古屋de朝活読書会
「夜明け前のさよなら」はじめ、高校の頃、中野重治はよく読んだ。しかし、18歳の時、自分で作った詩集で引用したのは与謝野晶子と石川啄木だった。まだ、自活しておらず、中野重治のような生き方ができる自信がなかったためかもしれない。今でも、そんな風には詠めない。
2020/03/15
あや
何度目かの再読。国が軍拡を推し進めようとする時人はどう動くか。国が戦争に傾いていく時人はどう行動するか、今の世に問いかける「夜明け前のさよなら」。詩歌に手を染める者として向き合う「歌」。「胸さきの突きあげてくるぎりぎりのところを歌え たたかれることによって弾ねかえる歌を 恥辱の底から勇気を汲みくる歌を それらの歌々を 喉をふくらまして厳しい韻律に歌いあげよ それらの歌々を 行く行く人びとの胸郭にたたきこめ」 私は果たしてそのような詠歌ができているであろうか。平和な時代に甘んじていないだろうかと自問。
2022/09/23
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