右大臣実朝 他一篇 (岩波文庫 緑90-7)
右大臣実朝 他一篇 (岩波文庫 緑90-7) / 感想・レビュー
ちゃちゃ
稀代のストーリーテラー太宰治。その饒舌で淀みない文体で描かれる、いかにも太宰らしい実朝像だ。中世の動乱期、鎌倉幕府三代将軍にして優れた歌人としても名を残した実朝。「アカルサハ、ホロビノ姿デアロウカ。人モ家モ、暗イウチハマダ滅亡セヌ」滅びゆくものへの限りない哀惜敬慕の念。太宰文学を特徴付けるテーマが歴史小説の形をとり、ままならぬ世を生きる辛さ、非業の死を遂げた実朝の孤独が切々と語られる。「大海ノ磯モトドロニヨスル波ワレテクダケテサケテ散ルカモ」(金槐和歌集)滅びの美しさや危うさ、寂寥感が行間に滲み出る。
2022/11/11
藤月はな(灯れ松明の火)
源氏直系の最後の子孫、源実朝。その年に起こった事実だけを簡素に書いた「吾妻鑑」を基にした筆致は歴史上の人物像を血肉の通う人間として魅せ、読者の想像力を膨らませる。ただ、語り手である元近習は義時、政子などの鎌倉勢には客観的なのに実朝は神格化している。即ち、信頼できない語り手と言えよう。また、実朝にしろ、京都への憧れで楽に耽溺する晩年に至るに連れて益々、その心根が分からなくなってくる。個人的に自分を「鎌倉にはそぐわない山師」と称する公暁から見た実朝像が印象深い。彼は井の中の蛙だったか否か。鴨長明の登場には吃驚
2023/01/19
たま
読書メーターのご感想に教えられて。『吾妻鏡』に拠りつつ実朝の近習が、実朝を追想する。年少の近習が仰ぎ見る実朝は俗塵から浮かんだ貴種で、カタカナ表記の簡潔な発語がそれを強調して効果的。和田の乱(「将軍トハ、所詮、凡胎。厩戸ノ皇子ハ、寵臣ニソムカレタ事ハナカッタ」)以降は周囲の諌言にも関わらず、朝廷への傾倒を強め都風の宴会に明け暮れる。煌びやかではあるが実朝の率直な心情はぼやけていく。「アカルサハ、ホロビノ姿」と言うことか。末尾近く公暁から見た実朝が語られるが、実朝暗殺黒幕説などには踏み込まずに終わる。
2022/11/18
さらば火野正平・寺
10代に読んで以来の再読。当時より多少理解力が増して再読できたのが嬉しかった。しかし、これを読む前に大佛次郎の『源実朝』を読んでいたので、ついつい比べてしまうのだが、正直な話、太宰治の実朝より大佛次郎の実朝の方が面白かった。すみません。
2023/06/09
金吾
実朝に対する著者の思いは感じます。歌人だった以外はあまり特徴を感じない人でしたが、この本での実朝を読んで少しイメージが出来ました。
2023/08/03
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