林芙美子紀行集 下駄で歩いた巴里 (岩波文庫)
林芙美子紀行集 下駄で歩いた巴里 (岩波文庫) / 感想・レビュー
lily
内向的で日焼けも寒さも退屈も旅特有の煩わしさ、不便さ、心配事も嫌いで、読書の方が一人旅以上に旅してる気分に穏やかに浸れる私にとって、まさに楽天家の林芙美子の紀行文学は頗る有り難い。旅の醍醐味だけを安心して吸収することができる。市井の人々、自然、建築物、特産品、みるもの全てに心を配り、愛で、好奇心旺盛な林芙美子は尊敬する芭蕉の如くいい仕事といい旅に生きた。
2019/07/28
ひろみ
「長旅は一人にかぎる。」と。昭和の初め頃に記された紀行文が20載っています。とても臨場的で、色鮮やかに景色を思い浮かべられる文章でした。読んでいてとても楽しい。印象や心情なども、友達の話を聞いているような親近感。 巴里へはシベリア鉄道で。人好きのする方だったんだろうなぁと思います。行きずりの人とのやりとりがたくさん書かれています。垣根のなさ。素直さ。ご自身の中での対話。 この時代の文章を読むと、聞いたこともない擬態語がたくさん出てくる印象です。「ちぐちぐ」「ほつほつ」などなど、面白い。
2023/09/08
アオイトリ
NHK100分で名著より)柚木麻子の解説が上手で、林芙美子、初読。え〜!こんなにあっけらかんと面白いこと書いていたなんて、知らなかった。その感性は今も分かり合える。花の命は短くて、苦しきことのみ多かりき…は有名ですが、全文を知るとまるで違う印象。風も吹くなり 雲も光るなり 生きている幸福は 波間の鴎の如く縹渺と漂ひ 生きている幸福は あなたも知っている 私もよく知っている 花のいのちはみじかくて 苦しきことのみ多かれど 風も吹くなり 雲も光るなり。その明るさが好きです。
2023/07/27
ソングライン
作家として生活ができるようになった20代後半、時代は満州事変直前の1930年(昭和5年)、作者はハルピンからヨーロッパへむかう列車に一人乗り込みます。シベリアを走る列車の三等車両で出会うロシア人達、言葉は通じぬが二度と出会うことのない貴重な交流を経験し、10日の列車旅で到着したパリ。その後パリとロンドンで約半年間のアパート生活を送る作者。仕事として小説を書くことの辛さ、日常のわずらわしさからの救いを得るための旅ですが、この時代を考えると彼女の旅は命がけです、だから面白くないわけはありません。
2021/04/24
さっと
海外紀行のみで構成された『愉快なる地図』(中公文庫)と重なる部分はあるものの国内旅行も読めて良い。樺太からの帰路のものと思われる北海道の「摩周湖紀行」は道東出身者としてはなじみ深い地名ばかりでうれしい。「途中で気が変わってしまって、根室本線へ這入ってみたくなり、乗りかえ駅の滝川に、周章てて降りてしまった」とあるが、滝川から根室本線、すなわち帯広・釧路方面に向かう当時の足跡も、来春には富良野~新得間の廃止で完全に途絶えてしまう。鈍行で辛抱づよく釧路まで揺られていったフミコさんにますます親近感がわく。
2023/12/29
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