M/Tと森のフシギの物語 (岩波文庫)
M/Tと森のフシギの物語 (岩波文庫) / 感想・レビュー
さゆ
祖母によって語られる四国の森の神話時代から現代までの物語。T(トリックスター)という破天荒なアイデアで人々を導く人間と、それを支えるM(メイトリアーク)女族長という特徴の人物たちのコンビで歴史が紡がれてきていると語られる。個人的には「昔のことなれば無かった事もあったにして聴かねばならぬ」という言葉が印象的だった。現代においても、あったのかなかったのか信憑性に乏しい出来事というのは多くあるが、人間である以上もしかしたら未来に起こりうるかもしれないこととして、あったこととして考えていくのが大事なのではと感じた
たぬ
☆3.5 ふ~やっと読み終わった。昔語り口調な文体で内容的に飛ばし読みも難しいから通常の3割増しで読むのに時間がかかったよ。巨人化したりすぐに生まれ変わったりするのは本当神話っぽいね。しかも四国って。光さん作曲の「Kowasuhito」聴いてみたい。大江作品はこれ含めてまだ6冊しか読んでないけど『芽むしり仔撃ち』を凌ぐものには出会えてないなあ。
2022/09/15
コニコ@共楽
大江さんの作品は、ときどき思い出したように読んでいました。お亡くなられて懐かしく思い、故郷の四国を描いた話を読んで読書会でも取り上げようと思い立ちました。神話と歴史がミックスしたような形態が際立ちます。「壊す人」、「オシコメ」といった巨人の神様のような人たちから、語り手の祖母や母、子どもに繋がっていく流れが、ある時は可笑しく、ある時は残虐に語られているのです。祖母である語り部から聞く人として選ばれた者が、今度は伝える人となって、物語を紡いでいる、自分の人生と村の物語が見事に重なっていくのを感じました。
2023/05/31
ドン•マルロー
「同時代ゲーム」のリライト作ということだが、そちらの方を未読のため、どのくらい連関性があるのかは解らない。少なくとも、独立した一個の作品として読むことは可能だ。従来の大江作品との相違点は「です」・「ます」調の柔らかい文体だろう。その文体のことを解説にて小野正嗣氏が受容的もしくは女性器的と形容しているが、何となく解るような気もする。ガルシア・マルケスが祖母の語ったように書くことで「百年の孤独」を完成させたように、大江も森の伝承や村の創世の神話を、祖母や母が語りそして彼の耳で聞いたように書いたのかもしれない。
2016/05/13
コニコ@共楽
読書会のために再読。はじめに読んだ時の独特の文体にも慣れてきて、お話しの情景が浮かんできます。四国の閉ざされた村の森が、最初から終わりまで、この語りにどっしりとした存在感を与えています。そこに木々があり、川があり、人は物語を紡いで神話を創り、歴史を刻んでいます。語りは一様ではありません。陰影に富む幾通りの語りが言い伝えられていて、その豊かさにも驚かされます。登場人物も「壊す人」は村を”創る人”であり、「死人の道」は”生き残る道”となって、アンヴィバレントな意味を内包していくと思い当たりました。
2023/06/28
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