キルプの軍団 (岩波文庫)
キルプの軍団 (岩波文庫) / 感想・レビュー
kaoru
現役の暴力犯係長、忠叔父さんとディケンズの『骨董屋』を原書で講読する高校生オーちゃんは、叔父さんの旧知の女性でサーカスの一員だった百恵さんを巡り妙な事態に巻き込まれる。『骨董屋』に登場する悪漢キルプと少女ネルについて考えつつ映画撮影の現場に立ち会うオーちゃん。無残な事件も起きるが、多感な少年の文学への傾斜と現実との葛藤が描かれ、希望がほのかに見える結末を迎える。大江氏の次男と実弟をモデルにしたこの中編は、ナイーヴな語り口ながら筆者の深い思いに支えられている。読後にディケンズが読みたくなることは間違いない。
2023/05/16
藤月はな(灯れ松明の火)
先に『骨董屋』、『虐げられた人々』、そして『万年元年のフットボール』を読めば良かったか・・・。でも『骨董屋』を原文で読もうとする時点でオーちゃん達は凄いと思う。死を伴ってしまった罪は死や関係者を巻き込む事でしか償えないのか?それに対し、作者はイサクを捧げようとしたアブラハムの説話と「ネルは祖父の死を願ったからこそ、死ななければならなかった」というマクパイプの説に対し、キルプへや原氏への優しい目線と悼みを以て反証する。そして罪を抱えたオーちゃんがそれを自覚してそれでも自己恢復があった事とお兄さんとの歌が救い
2018/08/28
SOHSA
《図書館本》まさしく大江健三郎イズムが展開された作品。文学が思想的哲学的であった最後の担い手が大江健三郎だったのではないかと思う。本書「キルプの軍団」に描かれたクライマックスの場面はやはり私たちの世代には圧倒的なリアルさをもって迫ってくる。あの時代のあの言いようのないエネルギーはやがて行き場を失い消えていく定めにあったが、それでもなお諦めきれない残り火が、燃え尽きる前の輝きを放つように読み手の胸に突き刺さる。本書にあの時代の縮図を感じたのはおそらくは私ひとりではない。合掌。
2024/03/09
Vakira
大江健三郎はSFしか読まなかった学生の時に安部公房つながりで知り読んでいた。それから数十年読まないうちにかなりの作品が発売されていた。ノーベル文学賞受賞をきっかけに「水死」を読み、健ちゃん節健在を知る。これは 読友さんのレビューで 最近岩波文庫で発売されたことを知る。書かれたのは1988年。30年も前の作品だ。高2の少年の語り 非常に丁寧な表現。今まで読んだ健ちゃん節ではない。新鮮だ。キルプって何?キルプはディケンズの小説「骨董屋」に登場するらしい。
2018/09/12
たぬ
☆4 ディケンズか。5年近く前に『クリスマスキャロル』を読んだきりだな。「とてつもない事件に巻き込まれる」ってもこんな楽しいトラブルならいいんじゃない? いつの間にやら映画制作チームの一員になってたなんて。…と思ってたら終盤最悪の事態になってた。主人公一家がまんま作者一家をなぞっていると知ってほっこり。特に長男、音楽家なのも名前もそのまんま。
2022/02/07
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