色ざんげ (岩波文庫 緑 222-1)
色ざんげ (岩波文庫 緑 222-1) / 感想・レビュー
藤月はな(灯れ松明の火)
芸術家でありながら実生活では流される男、譲治。彼は女達を翻弄し、状況に戸惑いながらもそれに対して良心の呵責も面倒だとも思わない。どこまでもフラットな彼の思想はある意味、潔いとも言える。しかし、同時に誰からも浅い付き合いでしか終わらないという彼の業すらも突きつけているように思えた。そこが彼を「クズ」と一刀両断できずにあはれさを感じさせる所か。それにしても譲治に迫った高尾が袖にされてからの憤激ぶりと残酷さ、とも子が大学生と駆け落ちした時に感じた気持ちに共感する所もある。それは女としての自尊心が高いからかも
2019/05/26
Willie the Wildcat
うだうだのダメ男の持つ”魅力”に翻弄される4人の女性。とも子の母親と織りなす会話が本著の〆。何だろう、何事もなかったかのようなこの爽やかさ?甘えなんだよなぁ、自己中心的なんだよなぁ。しかしながら、とも子の父に見せた涙、そして支援者に見せた涙。どちらにも”濁り”を感じさせない。譲二の心底の悩みが、ヒトの持つ”欲”ではなく、人や家の持つ温かみへの飢えだからではなかろうか。つゆ子のばあや、老婦人のキップの良さも印象的。周囲を固める女性陣も、もれなく”懺悔”に貢献した感。
2019/06/01
りつこ
画家・東郷青児をモデルに彼と関係を持つ三人の女が描かれる。言い寄られればふらふらと関係を持ち、その友人の方が美人だと思えば今度は自分から言い寄り…駆け落ち、重婚、心中と、主人公の譲二の行動は恋愛に生きる男そのものなのだが、不思議と熱が感じられない。女の側の熱情や思惑にただ流されているようなのだが、時々激情に駈られて無分別な行動に走る。彼の虚無感が女から愛情を男からは同情を引き寄せるのか。身勝手な男だが哀れでもあるし羨ましくもある。「色ざんげ」というタイトルも秀逸。
2019/05/21
ビイーン
宇野千代は初読。題名が気になり読んでみたら、これが結構面白い。読み始めると続きが気になって止まらない。物語は実在の有名画家の心中未遂事件がネタになる。宇野千代独特の感性が暴露本を文学作品に昇華させる。主人公の湯浅は3人の愛人に振り回されっ放しで情けないと思うが、男の気持ちも分からなくもない。男と女の理屈で割り切れない生生しい描写がリアルにホラー的な怖さを感じさせる。
2022/02/27
松本直哉
改行なしに延々と流れる文章には独特のリズムがあって、信頼できない語り手による問わず語りの告白に仕組まれるいくつもの危ない橋にページを繰る手が止まらず、小説を読む醍醐味を味わう。同時代の風俗を描いた谷崎の細雪が、少なくとも表向きは安定した家族の物語なのとは正反対に、洋行帰りのどう見ても生活力のない画家と彼に関わる三人のいずれも個性的な女性たちの、家族や結婚という枠からどうしてもはみ出してしまう不穏さ、昭和モダンの華やかさとそれに隣り合わせの虚無への傾斜。つゆ子さんが時折見せるにっと笑う笑顔が好きだった。
2021/11/27
感想・レビューをもっと見る