老女マノン・脂粉の顔 他四篇 (岩波文庫 緑 222-2)
老女マノン・脂粉の顔 他四篇 (岩波文庫 緑 222-2) / 感想・レビュー
藤月はな(灯れ松明の火)
貧しい事、孤独である事、不誠実な過去の自分を引きずる事、そして女である事を抱えてこの世で生きていく辛さと静かな怒りに満ちた短篇集。どの短編も泣き怒り混じりの溜息が聞こえてきそう。「墓を発(あば)く」は唖の久太君が学校に来たくても来られなくなった理由に絶句。お偉いさんの気まぐれに翻弄され、効率主義の悪弊で苦しむ人はいつの世も変わらんのか・・・。そして亡くなった母に対して腹違いの姉の激しい憎悪の叫びは、親を憎んだ事がある人にとって泥むものがあるだろう。「巷の雑音」も夢でしか鬱憤が晴らせない現実が辛すぎる。
2019/09/14
shizuka
あの穏やかでお美しい宇野千代さんが若かりし頃の小説集。若さとは力を常に孕んでいる。そして弾ける時を待っている。この小説はとても強い。時に攻撃的でもある。彼女が感じていた憤りに直面し対処に困ることもあった。けれどその一方どこかで安堵している私もいる。ああ千代さんにも怒りの遣りどころに悩み、苦しんでいた時があったのだと。若さとは人間らしさをより感じられる時代でもあるんだ。その時代を通り抜けないと真の穏やかさにはたどり着けない。千代さんの生き様に私は私の指針を見出す。怒れ!暴れろ!そして、笑みを湛え全てを赦せ。
2019/11/06
hasegawa noboru
これが宇野千代作品か、ずいぶん印象が違うなと思いながら読んだ。一〇〇篇近くもある初期作品の中から、作者自らの意図で全集第一巻に収められたのはわずか一五篇だという(解説・尾形明子)。なるほど。本文庫も表題作二篇以外の四篇は全集に入っていないとのこと。その一つ「巷の雑音」(一九二二年作)。<呆れるほど安い工賃>ミシン縫い請負仕事や西洋料理店女給の過酷な労働の実態が女主人公お絹の直情を通して生々しく(観念的でなく)描かれる。<何処でも、金と白粉のある世界では、女は媚びを売らないでは生きて行かれなかった>その女性
2022/01/19
大臣ぐサン
宇野千代の初期作品、『脂粉の顔』『墓を発く』『巷の雑音』『三千代の嫁入』『ランプ明るく』『老女マノン』の6作品を所収。大正時代の女性小説家らしく、プロレタリア文学とフェミニズム文学の合いの子という印象。フェミニズム文学と言えども大正時代は男性との対比を持ってしか女性のアイデンティティを表現することが出来ないという点が、皮肉でもある。大正デモクラシーの華やかかりし時代でありながらも、その文学には一様に曇りが見られ、後の世を暗示しているようにも思える。
2022/09/05
ますたけ
ひたすら続く父親の暴力。それを受け続ける娘。100年前の日常。
2020/06/11
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