船出(上) (岩波文庫)
船出(上) (岩波文庫) / 感想・レビュー
藤月はな(灯れ松明の火)
ウルフ、ジョイス、プルーストなど「意識の流れ」を描いた小説は長ったらしく、浮世離れしたような印象を受ける。しかし、人の内面が全て、自動初期化と公開化されるようになったならば案外、このような膨大で饒舌、でも実は本音は隠しているようなのかもしれない。エヴリンの「男の人と対等な信頼関係を結びたい」という言葉は、フェミニズムの観点からも興味深く、当時としては画期的だったのでは?しかし、同時に高圧的な父と夫と上手く、関係が築けず、入水自殺したウルフの人生と重ねると苦しくなる。
2017/03/14
のっち♬
貨物船で父親と南米へ旅するレイチェルは、乗り合わせた個性的な人たちと接するうちに自分の生き方を考え始める。冒頭の夜の闇や不安感を煽る台詞は悲劇を予感させる。乗客の中にはあのダロウェイ夫妻も。リチャードの強引なアプローチや、文学青年の高慢なひけらかしなど、事あるごとに船以上にぐらりと揺れるレイチェルの内面が静かに、細やかに描かれている。視点が周囲の人たちの間を縦横無尽に行き来する点もいかにも著者らしいところだが小説の枠組みは既存の手法を踏襲しており、物語としての骨格がはっきりしているのは当時ならではだろう。
2018/07/14
ケイトKATE
主人公レイチェルは父ウィロビーが持つ船に乗り南米へ旅に出た。上巻はレイチェルよりも様々な登場人物、それもレイチェルと関りの薄い登場人物が多数登場し、饒舌に語る場面が多くレイチェルの存在感が薄いのが気になった。ちなみに、登場人物の中にダロウェイ夫妻が登場するが、ウルフの小説『ダロウェイ夫人』と同一人物であるので少し笑ってしまった。レイチェルと関りが深い登場人物では、母親のように親身に気に掛けてくれる叔母ヘレンは好感が持てた。
2021/03/08
みつ
(「読んだ本」のつぶやき欄に感想を書き込んでしまったため、こちらに再掲します。)上巻の印象は、「ヘンリー・ジェイムズ(この本の出版1年後に死去)の小説世界に新しい風を吹き込んだ」というもの。上流階級に属する若い女性が見知らぬ文化の国に旅立ち、新たに出会う若者たちと恋愛の予感を孕ませつつ延々会話を続ける、という点が共通する。前半は船上の出来事で後年の名作『ダロウェイ夫人』の夫妻も登場(主人公の叔母ヘレンによると、夫人は「とても素敵な方」、でも「頭は空っぽ」とのこと(p141))。夫の行動が主人公に影響を▶️
2024/10/11
おおた
1915年のイギリスでは女性に参政権がないことに軽くショック。そういう状況を前提にした男性陣の物言いは当時では常識かもしれないけど21世紀には猿の遠吠えに見えてしまい、この100年で倫理観がいかに変わったか、そしてまだまだ変わっていないかを考えてしまう。同じ作家のダロウェイ夫人が出てきたことに驚き、夫が主人公レイチェルにちゅーするのも衝撃。作品の明確な方向性はないままレイチェルの思うがままに漂っていく不安定さはきらいじゃないけど、読書会では参加者のフェミ度が暴かれるような気もする。
2017/05/15
感想・レビューをもっと見る