影をなくした男 (岩波文庫 赤 417-1)
影をなくした男 (岩波文庫 赤 417-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
19世紀の香も高いメルヘン仕立ての物語。自分に魂を売り渡せと迫るメフィストフェレスのような悪魔も登場するが、怪奇趣味というわけではなく、もっとおおらかな筆致で描かれる。そもそも影を、限りなく金貨を生み出す魔法の袋と取り替えるといった最初の発想からしてなんだか愉快だ。物語の後半では、これに加えて魔法の靴までが登場し、著者の博物趣味が披瀝されるが、これも思いっきり荒唐無稽で、明るさに満ちている。もっとも、そうした表面的な明るさや、開き直りの背後にはずっと「影を失った」ことを喩とする暗部が付き纏っているのだが。
2014/10/14
ehirano1
これは僥倖。「影」とは人間の「内在的論理」だと思っていたら、かの「存在」だった。ストーリーも美しく「存在」について思索するいい機会になりました。
2023/11/25
アナーキー靴下
悪魔との契約モノはどちらが勝っても面白くて好きだ。人間が勝てばスカッと爽快、悪魔が勝てば人間の卑小さに打ちひしがれるホラーである。今まで不満足だったのは「ファウスト」くらいで、素人の私にはよくわからないルールで腑に落ちず地団駄を踏んだ(今読めば少しは理解できるかもしれない)。この物語も悪魔との契約モノに分類されると思うが、決着がどうなったかといえば、何とも言いようがない。全般、悪魔というものが寓意的なものだと考えた場合、人生のどこかで対決し退ける、なんてことは夢物語でしか有り得ないのだろう。読後は爽やか。
2021/08/16
クプクプ
父から借りて読みました。主人公がお金と引き換えに自分の影をゆずってしまいます。それからは日向を歩けなくなります。世の中、お金で解決できない問題があります。召し使いが影を失った主人を守って奮闘する姿はジュール・ヴェルヌの小説の世界にも似ていました。私はこの読書で「自分で災いのたねを蒔き」という部分と「摂理」という言葉を覚え、勉強になりました。
2022/02/09
NAO
自分の影に値打ちなど何も感じなかった男が、欲望に負けて影を売る。だが、影を失くしてみると誰もがそこに注目し、彼を忌み嫌う。怪異譚だが、人は大事なものを失くしてしまうまでその価値に気づかないという寓話でもある。だが、運悪く軽はずみな行動で影を失くしてしまったとはいえ、彼のその後の態度には「影がある普通の人間」よりもはるかに高潔さが感じられるところが、何とも痛ましく、皮肉なところだ。それにしても、影とはいったい何なのか。いろいろと考えさせられる。
2016/12/01
感想・レビューをもっと見る