春のめざめ (岩波文庫)
春のめざめ (岩波文庫) / 感想・レビュー
藤月はな(灯れ松明の火)
第二成長期に入り、性に関心を持ち始めた子供達。それに対し、宗教上や共同体での「子供は純粋で大人に従うべし」という思い込みから十分な性教育も受けさせない大人達。そこから起こってしまったメルヒオールによるヴェントラへの強姦の悲劇が痛ましすぎる。同性愛関係になったエルンストとヘンスヒェンの別れも同性愛が罰せられた当時を思うと切ない。欺瞞的な大人(権威を持つ彼らの名もまた、大人の性質を体現している)と彼らから逃げることもできずに振り回される子供達の姿にミヒャエル・ハネケ監督の『白いリボン』を思い出しました。
2017/06/08
えりか
春4。子供の頃、卑猥な単語を辞書でひいたり、落ちているエロ本を皆で見たりした。秘密の香がするからこそ知りたいし、知っているだけで友達から尊敬されたりした。でもそれが愛や恋に直結することなく、初恋の男の子とそんなことしたいとも思わなかった。愛を知らずにただ知識が異様にあったのだ。そんな思春期に周りの大人は対話もなく、ただ上からダメだと抑えつけ、子供は行き場なくしてしまう。 抑圧された欲求は悲劇を招くかもしれない。思春期に体験する様々な問題が書かれた本書。今、思春期の方、思春期の子供がいる方に読んでほしい。
2018/03/07
傘緑
「子供は病気だ、子供は死のうとしている。かれは今つかんでいるのだ、ひとつの先端によって世界を、そして夜がかれにもたらす羽によって鳥を(エリュアール)」殻を破る、孵化の寸前の鳥の胎児は、最も生命的な危機に陥るという。子供と大人の間にある、不安定な薄い危機の一線を、死にも似た生の暗さを、存在論的闇を描いた危険な本。神林長平の『七胴落とし』や牧野修の『MOUSE』に嵌まり沈み込んでいた時期にもしも読んでいたら、若さの拗らせにより拍車がかかっていただろうと思う。当時の自分を振り返ると、恐ろしくもあるが残念でもある
2017/07/17
みねたか@
思春期。性の目覚め,肉体的な変化への強い関心と恐れ,大人たちの言葉の欺瞞に気づき,生きていくことの意義を見出せない。精神的にも実生活の中でも窮屈に押し込められた若者たちの鬱屈が描かれる。このテーマがドイツの19世紀末という100年以上前を舞台に描かれているのが興味深い。解説によると当時の社会状況は,階層分化が進むとともに新たに中間層が台頭しつつあったという。現代社会の基盤が形成されつつある状況故か,今読んでも全く古びていない瑞々しさと苦しさ。
2018/06/05
王子
性を抑圧される子どもたちと、それについてひたすら沈黙を守りその表出を恐れる大人たち。性に関する本は世間に数多いが、この作品のように、性に対して(大人に対して)素朴な疑問を投げかけているものが少ないことに、常々疑問を抱いていた。まずはヴェデキント氏に対して、この本を著してくれたことを感謝したい。
2017/11/04
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