夢小説・闇への闘争 他1篇 (岩波文庫 赤 430-5)
夢小説・闇への闘争 他1篇 (岩波文庫 赤 430-5) / 感想・レビュー
nobi
カーニヴァルの季節には夫婦で仮装舞踏会に出かけ何事かあっても口直しに牡蠣とシャンパンで楽しく食事し、まっ白な雪道を馬車で帰る(夢小説)、親しくなった女性がヴァイオリンを手に取り、自らはピアノに向かってベートーヴェンのソナタを共演する、給仕が朝食の用意をする(闇への逃走)といった20世紀初頭のウィーンらしい光景は、一瞬の夢。娘のいる夫婦間も出会った彼女との関係もいつまで持つか心もとない。日常の会話に疑念渦巻き、想念の世界の中に閉ざされている。このやりきれなさを当時の読者(新聞等の連載小説)は受け入れていた?
2022/11/04
安南
映画『アイズ・ワイド・シャット』の原案であり、辻原登の『夢からの手紙』がこの『夢小説』の変奏だと知り興味を持つ。フロイトに「ドッペルゲンガー同士」と言わしめたのも頷ける精神分析学的な作品。『夢小説』はデカダンスで淫靡な味わい。『闇への闘争』は忍び寄る狂気への不安、妄想がエスカレートしていく様に他人ごとではない恐怖を感じた。どちらも、20世紀、ナチス台頭寸前の作品だが、世紀末ウィーンでの優雅なユダヤ系作家の生活が垣間見えるような作品で、複雑な気持ちにもなる。
2014/10/16
松風
日常に潜む、無意識、狂気の境。どちらが夢でどちらが現実なのか?その狂気は、誰にとっての狂気か?フロイトが嫉妬。
2015/01/08
波璃子
静かに怖さと狂気が這い上がってくるような三編の小説。一番好きな「闇への逃走」は鬱症状で静養していたローベルトが日常生活に戻ってきたものの猜疑心と強迫観念に押し潰され破滅していく様子が描かれていて人間の心の奥底に潜む闇を垣間見たように思えた。
2016/06/18
em
確かに覚えのある、今までもこれからも絶対に他人に話すことはないであろう感覚。非日常を求める気持ちは誰にでもあるのだろうけれど、実際に踏み外しかけた瞬間というのを誰もが心の奥にひっそりと隠している、のかどうか私は知らない。「夢小説」は、『アイズ・ワイド・シャット』の原作と言われれば確かにあらすじは同じ、でもきっと十年後に残っているイメージは別物。シュニッツラーはアンソロジーでしか読んだことがなかったのですが、久々の世紀末ウィーン感をいっぱいに吸い込んで、心の薄暗がりが満たされた思いでした。
2018/12/22
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