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花・死人に口なし 他7篇 (岩波文庫)

花・死人に口なし 他7篇 (岩波文庫)

花・死人に口なし 他7篇 (岩波文庫)

作家
シュニッツラー
番匠谷 英一
山本有三
出版社
岩波書店
発売日
2011-07-16
ISBN
9784003243060
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花・死人に口なし 他7篇 (岩波文庫) / 感想・レビュー

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藤月はな(灯れ松明の火)

『アイズ・ワイズ・シャット』の原作者による入れ替わっていく愛と不実と死の短編集。不倫が多いのは作者のお国柄なのかしら?「花」は死者の名残とも言える花に取り憑かれた男。でもそれを捨て去り、生気を取り戻させるのが今の恋人だったというのがあっけらかんとしている。「わかれ」は死に逝く女の残酷な神秘性に対し、現世に取り残される男の弱さが鮮烈に対比されている。「死人に口なし」は不倫相手と逢瀬中に事故に遭い、恋人だけ、死んでしまった女の天秤に掛け、自己弁護に窮しながらも良心の呵責に苛まれるという心情が巧みで唸るしかない

2017/11/24

えりか

「愛と死」の短編集。愛における人間の狡猾さや弱さが上手く描写されているように思う。愛人の薄情さによって死んでいった女たち。死とは、死そのものをさすのではなく、相手の記憶から消えた時に起こるのだ。愛人が死を嘆いている間はまだ死んでいない。愛人が死をすっかり忘れてしまった時に、やっと死が訪れるのだ。「盲目のジェロニモとその兄」はこの短編集の中では異色のように思われるが、疑う気持ちと大切に思う気持ちの交錯、互いに支え合いつつも、何かがあれば壊れてしまいそうな微妙な均衡の関係がなんともねっとり薄ら寒くて好き。

2017/11/09

春ドーナツ

主人公の立ち位置。地面から2cm程浮いている。ゆらゆらしているのが文章に反映される。プロットに対して自由だ。宇宙遊泳。海月。場面転換は無意識下で行われる。非ー直線的。見本:「突然、彼は自分の部屋の中に立っていた。しかしどうしてここへ上がって来たのか、それは自分にも思い出せなかった」「前のこと、今起こりつつあること、そしてこれから起こるべきことなどが、すべて一緒くたになって意識に上がってきた」(46・52頁「わかれ」)読者は終始不安な気持ちになると思う。私たちも知らぬ間にジャンプしたまま着地できないからだ。

2019/01/14

きりぱい

不倫する二人の乗る馬車が横転し、男が死亡。どうしたらいいの!残された女がひたすら考えあぐねる顛末「死人に口なし」。約束の時間に来ない相手に、どれだけ自分に都合よく解釈を作り上げるか、滑稽なほど男が哀れになってくる「わかれ」。妄想だった不倫が現実になる驚きの日記「レデゴンダの日記」。盲目の弟に疑われ、悲しすぎる決着を見せる「盲目のジェロニモとその兄」など、いずれも愛の苦悩や心変わりなど、追い込まれる心理が克明でこちらまで憔悴しそうな妙な面白さ。ロマンチック転じて皮肉な愛の幕切れが多い。

2012/03/27

ミコヤン・グレビッチ

ひとつ前の感想で、ホフマンを昔のアナログ特撮映画に喩えた。その伝で言えば、百年後のシュニッツラーの短篇集は、主人公の意識の流れをハイビジョンの長回しで見せられているような感がある。主に恋愛や不倫を題材にしながら、その心理の機微や揺れが際立つように、特異な状況や出来事を巧みに設定してくるあたりは、見事な腕前と言うほかない。ただ、病気やら自殺やら事故やらで人が死ぬ話がとても多くて、どれも読後感はやるせなく、ペシミスティック。その意味でもオトナ向けで、南の島のリゾートでの読書などには持って行かない方がいい。

2019/08/30

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