聖なる酔っぱらいの伝説 他四篇 (岩波文庫)
聖なる酔っぱらいの伝説 他四篇 (岩波文庫) / 感想・レビュー
KAZOO
池内紀さんの訳が非常にわかりやすく読みやすい感じです。この作家は初めてでした。中編の「蜘蛛の巣」のほかに表題作を収めた短編集が入っています。作家はユダヤ人でナチスが勃興するときに生きた人物でその様子が作品のなかにほうふつとさせるような感じです。表題作は絶筆となったようですが、何か面白い味わいがある作品です。酔っぱらいの気持ちがよくわかります。映画化されていたようですが見ていません。
2016/02/27
ケイ
ただの酔っ払いではない。金を借りるにしたって誇りってものを持っている。お酒一本分なら恵んでもらっても、その10倍となれば返すあてのないものをうけとれるってか。いやあげませんよ、返してください、ただし私ではなく教会にいらっしゃる聖女様にね。そういうことなら喜んでお借りしましょう。その後の彼に起こったことといったら!やはりただの酔っ払い。だけど、僥倖に恵まれる酔っ払い。それを聖女様は見ておられる。「飲んだくれのわれらの衆生に、願わくば、かくも軽やかな、かくも美しい死を恵みたまえ」作者の叫びも聞き入れられた。
2016/04/11
HANA
冒頭の「蜘蛛の巣」。初めはその文体に馴染めなかったものの、読み進めていくとその情緒を排したような文体が内容に実に合ってくるように感じる。ナチス前夜を描いた作品だが、驚嘆すべきはこれがミュンヘン一揆の二日前に書かれた事。これを見るとやはりナチズムを肯定する空気が独逸全体を覆っていたという事が実感としてわかる。残り四編はそれとはガラリと趣を変えて、寓話めいた愛の物語。それが過去であれ女であれ、一旦手に入れたものを喪う悲しみめいたものを読んでいて感じる。表題作は題名からもっと明るいものを想像していたんだけど…。
2014/09/25
藤月はな(灯れ松明の火)
ユダヤ人で放浪をしていた作者が紡いだナチス台頭前夜を描いた「蜘蛛の巣」はユダヤ人を迫害するためのスパイとして働くことで地位を見出していく、野心家で俗物なテオドールと全てを憎悪しながらもそれらに執着する二重スパイのユダヤ人、ベンヤミンの対比が鮮やかです。この作品は、穏やかに見えて実は薄っぺらく、静かな狂気を宿す男がナチズムに傾向するまでを描いた『火葬人』と比較しても面白いかもしれません。「四月、ある愛の物語」はセフレの女の嫉妬と男の身勝手な心境変化の描写が上手くて思わず、のめり込んでいました。
2013/11/28
miroku
ヒトラーの登場を予見したかのような「蜘蛛の巣」。留まれぬ流転の哀しみを湛えつつも流雲の如き軽やかさを併せ持つ文章に独自の読み味あり。寓話「聖なる酔っぱらいの伝説」が未完なのが悔やまれる。
2015/01/25
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