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火の娘たち (岩波文庫 赤 575-2)

火の娘たち (岩波文庫 赤 575-2)

火の娘たち (岩波文庫 赤 575-2)

作家
ネルヴァル
野崎歓
出版社
岩波書店
発売日
2020-03-17
ISBN
9784003257524
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火の娘たち (岩波文庫 赤 575-2) / 感想・レビュー

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のっち♬

書簡体、小説、おとぎ話や民謡、戯曲、詩篇など多彩な様式が織りなす「失われた恋」の作品集。自らの創作姿勢を真摯に訴えたデュマ宛の序文は重々しい。しかし、本編は飄々とした語り口で、過去と現在、夢とうつつを縦横無尽に往還し、掴みどころのない神話的な浮遊感が全体を覆っている。名編『シルヴィ』も回想に回想を重ねた複雑かつ重層的な語り構造が物語に生き生きとした躍動を与えており、「魔術的魅惑」を感じずにはいられない。作品ごとの雰囲気は全く異なるが、様々なモチーフが編み込まれた『幻想詩篇』が全体に統一感をもたらしている。

2021/10/25

やいっち

(前略)中東を含めたギリシャローマの古今の世界を自在に、あるいはまさに幻想の中で往還することが感じられてくると俄然、作品の世界が楽しめる。プルーストの『失われた時…』では、マドレーヌ効果が印象的なように、本作ではふとした機会に主人公は嘗ての世界の現前を目の当たりにする。そんな幻想。諸作品の有機的つながりが感じられだした本書の半ば頃になって遅まきながら丁寧に読んでいくようになった。彼の世界を存分に楽しむには(特に馴染みのない吾輩のようなものは)たっぷりの素養か、幻想文学への馴染み…センスが必要なのだろう。

2021/10/07

藤月はな(灯れ松明の火)

「アンジェリク」は時間や挿話が入れ子細工になった構成小説。そのため、読み心地は「失われた時を求めて」のように一読では掴み切れない。また、再読しても「シルヴィ」でエゴ満載の理想を押し付け、駄目だったら他の女性でやり直す語り手にはやっぱり、腹立ちます。特に今のシルヴィの財政状態を知らずに「誰が彼女を嫁に貰うのだろう?(持参金の用意もできない程)あんなに貧しいのに!」と思い込む辺りは踏みつけたい気持ちになります。「ジェイミー」は意外にも開拓ものでした!先住民に攫われても魅力で切り抜けていく烈女ジェイミー、天晴れ

2020/07/11

かもめ通信

1年近くかけて、少しずつ、少しずつ読んできた。なにしろ文庫ながら容易に自立する分厚い本なのだ。おまけに収録作品も小説・戯曲・翻案・詩と多岐にわたっている。一気に読んでしまってはそれぞれの印象が薄まってしまいそうな気もして一つ、また一つと読み進めていった。訳者の野崎歓氏は、ネルヴァルを卒論で扱って以来、四十年近く読み続けて少しも飽きないという。その思いは、巻末に収録された充実した解説はもちろん豊富な訳註にも反映されていて読み応えのある1冊になっている。

2021/03/15

あ げ こ

〈師よ、あなたにとっては遊びでしかないはずのことが〉〈私にとっては執念となり、眩惑となったのです。〉…執念、眩惑、まさしくそのようにして書かれている。まさしく魅惑された者の手によって書かれている。魅惑されることの快楽と苦痛と、抗い難く抜け出し難いその迷宮性、或いは果てのない無際限さの只中にある者の手によって。自らを眩惑する魅惑を、夢幻と現を縫い合わせるようにして書くこと。繊細に、優美に、囚われている者の憂鬱と喜びをもって。生きるようにして書くこと。ともすればそれが自らの生と化すほどに、境目を見失うほどに。

2022/07/05

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