二重人格 (岩波文庫 赤 613-2)
二重人格 (岩波文庫 赤 613-2) / 感想・レビュー
のっち♬
小心者だが人一倍栄達を望む野心家でもある主人公が、内心に湧き起こる精神の相克により幻覚が現れ、次第に精神の均衡を失って発狂していく。全体に冗長でまわりくどい反復表現が多く、幻覚と現実の境界もあやふやで、読み手が困惑する内容に仕上がっている。しかし、この不透明感に慣れると、彼に「欠けているあらゆる才能を身につけていて、常に彼を愚弄する」分身を憎みつつも羨むという、人間の複雑な心理を抉った文面からただならぬ凄みが伝わってきて、後年までこのテーマを追求した著者の執着がうかがえる。深刻な都会人像を突きつけた一冊。
2018/04/20
Y2K☮
ドストの長編第二作。本人は自信満々だったらしいけど、うーん・・・直前に「虐げられた人びと」と「罪と罰」を読んだせいという事にしておく。とりあえず同じ独り言の繰り返しには参った。あとはゴーゴリの影響が表に出過ぎ。歴史的文豪の模倣は避けた方がいい(一見カジュアルな春樹氏の文体が実はとてつもなく難しいという点からも明らか)。どうしたってオリジナルには及ばないから必要以上に欠点が浮き上がる。ここから脱却したからこその「罪と罰」であり「カラマーゾフ」なのだ。新訳でも読みたい。その時の題はぜひ「ドッペルゲンガー」で。
2016/05/02
優希
面白かったです。精神の平衡を失って発狂する主人公というのが衝撃でした。人間心理を深く抉った作品だと思います。
2024/10/20
シュラフ
人間の二面性を扱った作品としては、その善と悪を描いた『ジキル博士とハイド氏』がもっとも有名だろう。この作品で描く二面性は善と悪ではなく、"劣等感にさいなまれる自分"と"現実世界をうまく立ちまわるもうひとりの自分"である。わたしには『ジキル博士とハイド氏』よりもこちらの方がしっくりくる。思うに任せない人間社会を生きる現代人の多くは同様の思いを抱くのではなかろうか。意外と自分自身のことを冷静に見ているものである。もうひとりの自分は、自分の足らずの部分を備えていて、自分のこと冷笑している。耐えられなくなる。
2016/05/22
松本直哉
相手の唯一無二性を確かめるかのように、会話の中で何度も相手に父称つきで呼びかける主人公の執拗な話し方がうるさいけど印象に残った。彼の前に現れた瓜二つのの男は夢なのか妄想なのかクローンなのか、いずれにしても孤独を好む狷介な主人公とは正反対の社交的で如才ないその分身に対して、彼は嫌悪感しか感じることができないが、それは結局自分自身にブーメランのように帰ってくるものでもある。悲劇的な結末にもかかわらず、あくまでも burlesque で scherzando な調子は終始かわらず、奇妙な読後感であった。
2021/12/11
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