ヴィクトリア (岩波文庫)
ヴィクトリア (岩波文庫) / 感想・レビュー
新地学@児童書病発動中
ノルウェーのノーベル文学賞作家が描く悲恋物語。粉屋の息子ヨハンネスと城の令嬢ヴィクトリアはお互いに好意を持ちながら、一緒になることはできない。やがて過酷な運命がヴィクトリアを襲って―――。切なく悲しい結末は泣くしかなかった。モダニズムの作家らしく詩的なリズムのある文体が印象的で、美しい北欧の自然を鮮やかに描き出している。ポリフォニックな構造も持っており、物語の中に別の物語が急に挿入されることもある。しかしこの物語の中心は、ヨハンネスとヴィクトリアの悲しい恋だ。読み手の心を激しく揺さぶる清冽な恋の物語。
2015/08/23
のっち♬
粉屋の倅と城主の令嬢の悲恋。話自体は伝統的なメロドラマであるが幻想が唐突に挿入されるポストモダニズム的手法や、老教師や修道士に恋愛のアンビバレンツな知的洞察を代弁させるポリフォニーは著者ならでは。明朗で牧歌的な主筋に対して作中作の奇天烈な世界観は結構なギャップ。常に落ち着きがなく周囲に翻弄される主人公に著者が重なって見えもするが、だからこそ無味な不活発で終わらない推進力を得たと思う。すれ違いの原因が階級よりもコミュ力という点は現代的かも。汚れなき自然への賛美、無関心な運命に支配される人生観が顕現した作品。
2023/05/13
巨峰
領主の令嬢ヴィクトリアと粉屋の息子、幼馴染のふたりのもっとも美しい愛の物語。ノルウェーの作家ハムスンの北欧の森と海と町を舞台にした小説。というふれこみなのだが、このヴィクトリアという少女の行動がとんでもない。度がすぎるツンデレなの?この子二重人格?それとも、双子の姉妹がいて交互に現れてるの?と思ってしまった。だから、最後の手紙の告白シーンもザマー!としか思わなかった。人の心を弄びすぎてはいけません。(まあ僕の読み方が悪いのかもしれないけどw)イメージとか幻想とかがどんどん突入されてくるところは面白かった
2015/08/28
壱萬参仟縁
愛とはなにか。薔薇の花々を吹きぬける風、血潮をたぎらせる黄色い焔。老人の心すらも躍らせる地獄の音楽。夜の訪れとともに花を開く壁ぎわの雛菊。かすかな息吹にも花を閉じ、かすかな接触にも息たえてしまうアネモネ(43頁)。また、夜半、修道士を閉ざされた中庭に忍びこませ、眠れるひとの窓をみつめさせる。修道女を愚行へと走らせ、王女の思慮を曇らせる。王を路上にひれ伏させ、髪で塵埃を掃ききよめるのも、なおかつそのあいだも、みだらな言葉をつぶやき、にやにや笑い、舌を突きださせる(44頁)。
2016/01/30
ラウリスタ~
素晴らしく美しくも悲痛な物語。身分違いの恋、本心を偽るヒロイン、突然の死とプロットはあまりに古典的で単純なはずなのだが、それ故に、予定調和のその世界に流れる時間に否応もなく引き込まれてしまう。ノルウェーの作家、1898年。巻末の注は、当時のノルウェーの作家がデンマークやドイツの市場に乗り出す必然性を語っていて勉強になった。北欧の作家って19世紀末でもこんなピュアな感性を持てたんだなと思う、ヒュペーリオンの百年後なのに。
2015/09/12
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