木綿以前の事 (岩波文庫 青 138-3)
木綿以前の事 (岩波文庫 青 138-3) / 感想・レビュー
syaori
日本人の衣食住、それと繋がる女性の生き方に関する論考が収録されています。衣服への木綿の採用により、麻の突っ張った外線から撫で肩と柳腰が普通となったというように、語られるのは日本人の生活の変化で、特に多数無名の人々の毎日の慣習が、地方に残る風習や和歌・俳諧などの記録から繙かれて興味を惹かれるばかり。その中で言われるのはその変化は「改善ばかりではない」、だから「未来のために画策しようとする者は」「今までの経過を考えてみる必要がある」ということで、経世済民を説いた柳田の哲学の一端も垣間見られたように思います。
2024/07/02
六点
学部一回生のプレゼミで輪読した事を思い出したので記録。
2024/04/28
壱萬参仟縁
「昔の日本人は、木綿を用いぬとすれば麻布より他に、肌につけるものは持ち合わせていなかった」(13頁)。貧しい身なり。「近年まで木曾の福島に問屋があって、盛んに関西地方に送り出していたタフなるものも、たとえ今日では木曾の麻布だけに限られているとしても、少なくとも名の起こりはかつてそれ以外の植物繊維を追ったものがあった(略)」(27-28頁)。そのような話を知識人らに今度聴いてみたい。「少しでも余裕の有る者が、他を助ける心持で、本を読みまた考えるようにならなければ、次の代は今よりも幸福にならぬ」(108頁)。
2013/12/27
ミツ
表題作含め19の講演録を収録。 70年以上前の著作だが就職難や児童の体力低下、所得格差の拡大など現代と同じような問題を衣服、団子、餅、囲炉裏から酒、煙草、遊女に至るまで現実の細々とした生活の歴史を明らかにすることによって読者に問い掛ける啓蒙書。 その語りは全く古さを感じさせず優しく誠実だが情熱を秘めた柳田国男という人の呼吸や人柄がダイレクトに現れていてとても好ましい。 今も昔もかなり違うはずなのにどこか共感してしまう、心に響くものがあることを実感した。佳作。
2010/01/18
R
着物,食料,酒,習俗,女性の役割,生活全般に対する柳田の学問的姿勢が詰まっている。俳諧を絡めての論述は柳田の個人的趣味で,他人には真似できない柳田学としての魅力。当たり前のことは注目されず,別の当たり前が確立することで,まるでなかったかのように消え去っていく。昔のこととおぼろげに記憶され,ずっと昔からそうであったようにイメージされるが,実はそうではないことが多い。伝統という言葉で片づけるのは軽すぎる。
2021/11/07
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