根をもつこと(下) (岩波文庫)
根をもつこと(下) (岩波文庫) / 感想・レビュー
姉勤
自分のルーツと切っても切れない、祖国と国家。この似て非なる概念について、軽々に混同もしくは選別し決めつけをすることで招かれる、取り返しのつかない愚かさと哀しさ。世の権力者、支配者は、知ってか知らずか、その錯誤を利用し強者は滅ぼし、弱者は滅ぼされてきた。その力を知り尽くし利用したのが、著者と同時代のヒトラーであり、祖国を滅ぼした仇敵であるが、その点において著者は評価する。加えて人間の根を脅かす存在として科学技術を規定する。絶対無比な新たな宗教としての正確という真理。著者の見立て通り原子爆弾を創造するに至る。
2022/06/02
傘緑
「根こぎにされ、ウィーンの路上をさまよい、偉大さに飢えた、かのみじめな青年…」 痛々しいほどに青い本、すがりつくような彼女の絶望の叫びが伝わる。「『私たちは被圧迫者の側に立つべきなのよ』…『なんの名において〈べき〉なんだね。それで何をすると言うんだね』『とにかく自分の魂は救えるわ』(空の青み)」 ややバタイユの思惑で曲げられたところもあるが、「結局は自己愛の延長の隣人愛、極めて功利的」というヨブ記の悪魔に似た敵対者・バタイユの哄笑は、一面の真実を捉えていると思う。ヴェーユ自身が救いを待ち望んでいたという…
2016/10/09
いやしの本棚
わたしはこの本の読み方を間違えているかもしれない。ヴェイユは祖国フランス再建のためにこの論考を書いた。わたしはフランスではなく、目の前の壊れかけている場所を再構築するための指針として読んだ。職場がこうなったのはシステムの問題だと、毎日痛感させられている。再構築するために必要なものは何か、それから、その仕事に手をつけようと思うなら、どんな心構えでのぞむべきなのかと惑っていたのだけれど。『根をもつこと』は、規模はもちろん違うけれど、図書館という小さな「集団」の「根こぎ」と「根づき」について考えさせてくれた。
2018/06/16
白義
第三部を収めた下巻では、人の魂が根をおろすために何が必要なのか、どう根付くかを説く。恐らく上巻よりはるかに難解だろう。労働や知識の中にある聖性の見直しと、力の崇拝の否定、弱さに着目し、真・善・美が一致する道を模索している。ヴェイユの中で他者はどう扱われていたのだろう。人はむしろ自ら根をはるのではなく、他者との交流に触発されて根が開くものではなかろうか。このあとにデリダやレヴィナスを読むのを勧める
2011/02/02
CCC
批判力はあるけれど、まともな対案を出さない人だと思った。著者はよほど妥協が嫌いなようだ。しかし行き過ぎて善から生じるもの以外全て認めない、というレベルまで達している。でも著者の想定する絶対的な善や美は、この世に存在しないものに思える。著者はこの世が嫌いなのかと感じた。
2017/12/05
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