重力と恩寵 (岩波文庫)
重力と恩寵 (岩波文庫) / 感想・レビュー
新地学@児童書病発動中
人間の苦しみについてシモーヌ・ヴェイユほど真摯に考えた思想家はいないだろう。なぜ生きることはこれほど苦しいのか。神がいるなら、なぜ悪が栄えるのか、といった誰もが一度は自分に問いかける問題に、ヴェイユは正面からぶつかっていく。この本にはそういったヴェイユの思索の軌跡が、断章の形でまとめられており、彼女の死後に発表されたもの。人間とこの世の苦しみを考える時に、誰もが行きつくのが十字架の上で死んでいったイエス・キリストだ。ヴェイユも繰り返し繰り返し、十字架の上のイエスに想いを馳せる。(続きます)
2017/06/02
藤月はな(灯れ松明の火)
笠井潔氏の『サマー・アポカリプス』で取り上げられていたシモーヌ・ヴェイユの思想に触れることができました。文学やオペラへの造詣も深いのか、そういう比喩もあって面白い。しかし、余りにも妥協を許さずに純粋に研ぎ澄まされた思想には危うさと恐怖すらも感じてしまう。偶像崇拝、エルサレムへの意味付けが如何に神に遠ざかるのかを指摘する時にユダヤ人差別とも取られ兼ねない言葉が出てくるのにヒヤリ。そして人間の意志の徹底的な否定と神への帰依、生活のために重力に引きづられるしかない者たちへの言葉には素直に頷けないものもある。
2017/05/23
傘緑
「わたしは消滅するだけでよい。そうすれば、わたしが踏みしめる大地、わたしが潮騒を聴く海…と、神とのあいだには、完璧なる愛の合一が存在するだろう」「存在は、完全かつ純粋に苦渋にみちた苦悩を味わったのちに、完全で純粋な歓びの炸裂のうちに消えさる」二階堂奥歯は自分がバラバラになりそうな時にこの本を読んだという。危うさを孕んだヴェイユの真摯な内面と信仰の告白。「殉教を願うなどまだまだ生ぬるい。十字架は殉教を無限にこえる」ファシズムにも殉教にも留まらないその果てへの帰依、もはや思想というより、もっと暗く度し難い深淵
2017/04/13
テツ
どんなに生が悲しみと苦しみに満ち満ちていたとしても自らを穢さぬように。ただただ良く、善く在り続けることのみを求める。しかしそうした態度に満足してはいけないし、それで救われるのだと勘違いしてはならない。我々に許されるのはただ美しく在り続けようともがくことのみ。クリスチャン的な信仰の上に積み重ねられた思考は現代日本に生きる僕たちに心底から理解できるシロモノではないのかもしれないけれど、生きる上でのスタンスとして参考にはなると思った。ただ善を、ただ光を求めそれを目指して存在すること。
2018/09/29
koji
高校時代に学生運動に身を投じた70過ぎの元上司。最近「高校の時、影響を受けたのは、ポパー、吉本隆明、Sヴェイユ」と聞きびっくり。ヴェイユを熱く語ってくれたのですが、こちらは???。兄が天才数学者、劣等感と偏頭痛に悩まされ、職を転々としながら哲学を究め34歳で夭逝(1943年)。死後本書がベストセラーになり、更にカミュに影響を与えたことで評価が高まったとのこと。その上で本書を読むと、松岡正剛さんも言っていますが、これが一筋縄でいかない難しさ。ただ身を削るような一つ一つの言葉の迫力に圧倒されました→コメントへ
2024/07/28
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