グラン・モーヌ (岩波文庫 赤 N 502-1)
グラン・モーヌ (岩波文庫 赤 N 502-1) / 感想・レビュー
ヴェネツィア
1913年の刊行なのだが、表現世界はきわめて世紀末的なそれである。所在も不明の不思議な屋敷、そしてそこでのイヴォンヌとの邂逅と、ロマンティシズムに溢れる設定のもとで展開する。しかも、フランソワによって語られる物語は、過去の回想においてなされるのであり、失われた時間と空間を隔てることで、いっそうにロマネスクな相貌を持つのである。フランスでは(ガーディアン必読に入っていることからすればイギリスでもか)永遠の青春文学として読み続けられてきたようだが、私はとうとうモーヌにもフランソワにも投入できないままだった。
2017/03/07
NAO
道に迷って古い屋敷にたどり着き、この世のものとは思えないパーティーに出くわしたモーヌ。その廃墟のような屋敷は、モーヌにとっての「桃源郷」だったのだろうか。幻想的な場でのほんの束の間の非日常は、モーヌをそこに閉じ込めて、抜け出せなくしてしまい、モーヌがどんなに探し求めても、あの場所と日々は見つからない。モーヌのやるせなさや哀愁は、フィッツジェラルドの『グレイト・ギャツビー』と似ているかもしれない。
2017/01/29
のっち♬
迷い込んだ不思議な館で美しい娘と運命的な出会いを果たしたモーヌの長い探索の旅。館での祝宴の場面は特に幻想的。純粋かつ無謀で情熱的、破滅的な弱さを持ったモーヌ、彼を憧れ優しく見守る語り手フランソワとの対比や、田舎の風景や生活の描写などが魅力的。15年間の記憶を辿る語り口は「塞がれてしまった古い道」を探すように朧げで時系列も錯綜し、お伽話のような神秘的な雰囲気がある。後半はロマンチックに展開し、儚くほろ苦い余韻を残す。「僕らが死ぬとき、死だけはきっとこのやりそこないの冒険の鍵と続きと結末を与えてくれるだろう」
2018/01/30
長谷川透
この小説を耳にしたことがある人は日本には殆んどいないと思うし、書店でも平積みにされることはまずない。棚の中に埋もれ、ひっそりと眠っているような本である(年に何回手に取られるのだろう?)。読み終わった今でも、お世辞にも傑作とは言い難いし、同時代のフランス文学作品からは一段劣る小説である。なぜ、僕がこの小説を読んだかと言えば、かの『グレート・ギャツビー』の親とも言える小説であり文学の系譜上では村上春樹の『羊を巡る冒険』に繋がる小説だからだ(内田樹説)。この文学上の血脈を辿る上では非常に興味深い。解説必読!
2012/07/06
きのこ
ガーディアン必読27/1000 青春の甘酸っぱい感傷を、男は引きずるけど女は意外にあっさりしてるんだよな。著者は27歳の若さで戦死。その短い人生で知り合った人物が作品にも転化されてる。息の長い、話題作だった事がうかがい知れます。
2016/12/15
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