A.O.バルナブース全集(上) (岩波文庫)
A.O.バルナブース全集(上) (岩波文庫) / 感想・レビュー
藤月はな(灯れ松明の火)
若くして億万長者になるも、一人との人間としての武者修行に出かけたバルナブース君。但し、頭でっかちで自分以外の人の事を馬鹿にしている事に無自覚なバルナブースには正直、頬っぺたを引っ叩きたくなるのでどうしょうもない!特に金もあるのに掏摸をする姿も『バットマン ビギンズ』のブルースと違うのでイラっと来るんですよね。だからこそ、「貴方は相手を喜ばせようと笑う事もしない人。私は貧乏でも大切な事はあると知っているし、私自身、眼鏡を掛けたオールドミスになりたいの」と指摘し、求婚を撥ね付けたマダム・フローリーが素敵すぎる
2017/12/26
壱萬参仟縁
1913年初出。フランスの金持出身の寅さんかもしれない。短篇小説「哀れなシャツ屋」で、貧しい若者は最初憤慨したものの、自分の運命を呪い泣き出した。僕の愛の分け前を要求する権利があるはずだ、と(34頁)。どんな人にも愛を享受する権利がある。他、詩と日記が続く構成。「永遠の官能」で、君が僕の中に見ているもの、それは、社会の不正義と世の悲惨を思うあまりすっかり気も狂った男(73頁)。「読書の後の音楽」で、本を遠く離れて、人住まぬ土地に行きたい(99頁)。
2014/08/11
ラウリスタ~
ヴァレリー・ラルボーは二冊目。で、まだ上だけれども、断言できる。この『A.O.バルナブース全集』と題された本はとんでもない傑作である。おそらく、バルナブースという人物を仮定し、彼の著作をすべて集めたものだと思う。初期の短編とか、散文詩、そして長い日記。とんでもなく面白い。世間を小馬鹿にしたこの感じはユイスマンスでもなければ、ルーセルでもなく、でもどこかそのあたり。『失われた時を求めて』と同年の1913年の出版。そのせいかは知らないが、逆説に逆説を重ねる諧謔的な様が似ている、こっちはもっと変だけど。
2014/04/25
Fumoh
架空の大富豪、バルナブースの紀行文を集めた全集という体裁の書。上巻は自らの富豪という境遇を、哲学・詩的にこねくり回す、といった内容だった。著者の時代はまさに「ヨーロッパの斜陽」といった時期で、絢爛な文化が熟れていた一方、彼らの道徳観はある限界を迎えていた。裕福になったブルジョワジーが精神破綻をきたすほど、自己に尊大な道徳的欲求を突きつけた。そこではすべての上下・裏表が逆転し、「エスプリ」という価値は(少なくとも文学の世界では)定義を失くしていた。この本に書かれていることも、そのような混乱と、矛盾である。
2023/11/18
シンドバッド
ラルボー 第一人者ともいうべき岩崎力訳だけあり、特に詩は、お見事! これがラルボーか!というのが素直な感想。
2015/02/16
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