伊藤野枝集 (岩波文庫 青 N 128-1)
伊藤野枝集 (岩波文庫 青 N 128-1) / 感想・レビュー
藤月はな(灯れ松明の火)
伊藤野枝。私は彼女の事は無政府主義者の大杉栄と共に虐殺された女性としか知らなかった。しかし、本書を読んで私は表面的にしか彼女を見ていなかった事を恥じた。彼女は金子文子と同じく、現実から目を背けず、相手や社会の不条理に立ち向かった、聡明で真に自立した女性だったのだ。今の政治家こそ、この本を読むべきだと思う!結婚に対しての幻想の作り方は今も続いているといえよう。一方で青山菊江の活動に対しての「女性の現実を捉えていない」と辛辣に指摘する手紙での舌鋒の激しさや中流階級女性の上から目線の女性活動への批判にハラハラ。
2019/12/01
壱萬参仟縁
A図書館より。「乞食の名誉」:一日中、また一晩中、子供にばかり煩わされて、時間の余裕というものが少しもないのには、苦痛を感じない訳にゆかなかった(94頁)。せめて読書の時間だけでも、に読書家は共感する。そして、亡き母が子育てに犠牲にした多大な時間、労力を前に、毎朝・晩のりんを仏壇で鳴らすことで懺悔。
2022/02/03
松本直哉
命日に読む伊藤野枝。虐殺されてから百年、女性の隷従からの解放を訴える彼女の声はいまだに切実さを失わない。逆に言えばこの点で日本はこの百年なんの進歩もなかったことになる。女子供は黙っとけと言わんばかりの新内閣の顔ぶれを見ればそれも納得がいくけれど。エピソードから想像する情熱的な奔放さとは反対に、その文体は理知的で冷静、論争相手も理詰めで論破、自伝的な小説でも自分を突き放したような筆致である。被差別部落民の主人公が受けた侮辱からの忍従、その後の激烈な復讐を描く「火つけ彦七」が読ませる。
2020/09/16
かもめ通信
・小説や日記など、創作物を7点を集めた第Ⅰ部・『青踏』の編集部だよりを含めた評論・随筆と、大杉栄宛以外の書簡を収録した第Ⅱ部・大杉栄との往復書簡を収録した第Ⅲ部に、本書を編んだ森まゆみ氏による「嵐の中で夢を見た人――伊藤野枝小伝」と題する解説に注釈と略年譜を加えた1冊で、まさに、伊藤野枝その人をいろんな角度から眺めることができる構成になっている。青空文庫で読めるものも結構あるが、今のところ読めないものに意外なほど読み応えがあって読んで良かった。
2023/05/18
かふ
映画『風よ あらしよ 劇場版』を観て、大杉栄が逮捕され後藤新平に長い手紙を書くシーンが印象的でその手紙を読みたくて読んだ。野枝の論法は逆説で大杉を勾留したままでいいですといい、その結果何が起きても責任が持てないというのだ。その逆転の発想が面白い。山川菊栄に対しても観念よりも実地から攻めているように思える。それは自身の体験からくる思想なのか。そこが平塚らいてふから「青鞜」を引き継いだ実地なのだろう(成功はしなかったが)。大杉栄との三角関係も観念的なものよりも行動が先に立つ人なのだ。それを愛と呼ぶべきか?
2024/03/09
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