物語を生きる――今は昔、昔は今〈〈物語と日本人の心〉コレクションII〉 (岩波現代文庫)
物語を生きる――今は昔、昔は今〈〈物語と日本人の心〉コレクションII〉 (岩波現代文庫) / 感想・レビュー
彩菜
竹取から源氏まで、心理療法家である著者が王朝物語を読み解きます。移ろう美、直接的争いの忌避、人間存在の根源にあるものとしての悲しみ…共通する傾向を指摘しつつ「とりかえばや」の場所移動が意識から無意識への深度とも見え「源氏」の女性群像が作者の分身のようだと話す著者は、物語を心の内面空間で行われる心理的探求として読むようです。物語は一人の人間と社会との間の葛藤から生まれ、だからその時代や社会を反映すると同時に一人の人間の内界としても読める、それは洋の東西・時代の如何を問わず変わらぬよう。では何故いま古典なのか
2023/10/02
アルピニア
主として王朝物語を心理療法の観点から分析、解読している。先日読んだ「生きるとは自分の物語をつくること」で語られていた河合先生の考えをさらに深く知ることができた。特に心理面における物語の必要性、物語の役割について、あぁそうだったのか。と胸にストンと落ちることばがいくつもあった。それとともに中世の日本文学の豊かな創造性にも驚いた。紫式部の「女性の個に対する意識」に関連付けた源氏物語の解釈は私の印象とは異なる捉え方で興味深かった。物語世界に広がる人間の心理を探ることは水の底に深く潜っていくような感覚だった。
2016/11/19
ともとも
史料を基に心理学的に古典の物語を読み解いていく。 古典の物語には性があって、それがどれも共通している。 平安時代の物語、当時の人間の心情、家族形態、時代背景の現れ? 今後に語り継がれていく生きていく知恵とノウハウ?などなどという感じがしながらも 歴史や文学だけでなく、心理学的に見た物語などなど、とても興味深く、面白い。 古典の世界の奥深さと面白さを痛感しつつも、古典をもっと読んでみたい興味をそそられてしまいました。
2016/11/18
roughfractus02
物語のパターンを知ることは、人が生きることにとって重要な身の処し方の背景にある価値観や世界観を理解することである。平安-室町期の日本の物語を読む側と分かれた客観的対象ではなく、読む者との係する事例として臨床心理学的に扱う著者は、これら物語に母権と父権、美と醜、現世と異界、争いと和平Iの二項が対立でなく表裏関係として現れ、物語を方向づける特徴を見出す。シェイクスピア作品が対立と殺人を経て和平を迎えるのに対し、日本の古典物語が男女間の「密通」と敗者の滅びの美学によって殺人を回避して和平を迎える点が対照される。
2022/12/15
晴間あお
自然科学的な正しさとそれで納得できるかは別の話し。例えば人の死に対していくら医学的な説明をされても、なぜ彼(彼女)は死ななければならなかったのか、と思ってしまうものだ。そこで必要となるのが物語だと著者は言う。本書は日本の昔話から人の心を読み解いていますが、この昔話と心のつなげ方自体もまたひとつの物語という感じがします。何かをつなぐ物語がさらに別の何かをつなぐ物語を生む。「生きるとは、自分の物語をつくること!」と帯にはある。科学や宗教、文化など、膨大な物語を編む事によって人は生きているのだと思いました。
2017/06/13
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