荷風と東京(下) 『断腸亭日常』私註 (岩波現代文庫 文芸 154)
荷風と東京(下) 『断腸亭日常』私註 (岩波現代文庫 文芸 154) / 感想・レビュー
きさらぎ
自分の美意識と倫理観にとことん忠実に、滅びゆく江戸時代流の文人として生き、愉しむことを「自分に課しながら」生きた荷風。ダンディズムとはやせ我慢である、という言葉を思い出した。私娼を愛し「私は女好きだが処女を犯したことはない」と胸を張る。空襲で家を焼かれた流浪の日々、鄙の風景にマラルメや夢二を重ねる文人趣味。江戸とフランス文化からなる荷風の教養の厚みが、愚痴や弱音にさえ文体を与え、作品に昇華させる。その精神の力、そのストイシズムとダンディズムが、荷風の魂を荒廃への墜落から踏み留まらせた。そんな印象を受けた。
2016/12/15
まさにい
奇偏館があった六本木一丁目、今はもうすごい所だけれど、その当時は、武蔵野の雰囲気を残していた場所であった。東京は、絶えず普請中であり、あっという間に昔の面影を失う。郷愁の念は短い間隔で襲ってくる。かつて感じた風景を、まだ普請されていない場所まで言って感じ取るのは自然のことなのかもしれない。
2017/10/31
やまべ
どちらかと言えば地味で低刺激性の文章だと思うのだが、世の中に「川本三郎ファン」というのが確固として存在するのが分る気がした。確か「禁止事項を作る」と題するエッセイだったか、「好きなものについてしか書かない」という態度を表明していたが、永井荷風に対する限りない愛着がしみじみと感じられる著作。
2011/11/08
感想・レビューをもっと見る