二つの同時代史 (岩波現代文庫 文芸 159)
二つの同時代史 (岩波現代文庫 文芸 159) / 感想・レビュー
浅香山三郎
小説自体余り読まない癖に、小説家による回顧談のやうなものは好きだ。とくにこの二人の場合、人生そのものが20世紀史と重なつてゐて、その生ひ立ちや問題意識の持ち方、読書遍歴といつたものが其儘、日本の知識人のあり方を辿ることでもある。立花隆との対談本により、多少知識のあつた埴谷氏より、大岡昇平の方を詳しく知ることが出来たのが成果。埴谷の左翼運動への没入と挫折(革命党への不信感と文学的覚醒)、大岡昇平の従軍体験と戦後観、「戦後文学」といふ括りとその意味など、当事者ならではの証言が頗る面白い。
2017/01/01
パブロ
キレキレに頭が切れる老人の話ほど面白いものはない。同じ明治42年生まれで、戦前、戦中、戦後の荒波をくぐり抜けた巨人。生き様の重みが私と違いすぎて、「へへ〜っ」と頭を垂れるしかないッスよ。大岡昇平は青年時代に出会った小林秀雄、中原中也、さらには捕虜経験を語り、共産党地下活動から監獄でのカント体験を饒舌ボレロする埴谷雄高。特に戦後文壇のこぼれ話にはニヤリ。だってポカポカ殴られる石川淳や、みんなから嫌われる吉田健一だよ。まだまだ語り尽くしていない感じだから、一緒に酒を飲みながらず〜っと聞いていたいな二人の話。
2013/11/20
Francis
大岡昇平と埴谷雄高と言う、超個性的な文学者の対談。幼少の頃から対談当時の1980年代までを回想する。埴谷さんの台湾での幼少期、戦時中の裏話、大岡さんの中原中也と小林秀雄と小林夫人との三角関係、戦後の「近代文学」の裏話など、面白い話満載。埴谷さんが大岡さんの「武蔵野夫人」を褒めているのを読んで、まだ未読のこの本を読みたくなってきた。とりあえず積ん読状態の「俘虜記」は読まないとね。
2014/06/06
koala-n
対談集。大岡昇平も埴谷雄高も文学史的には戦後派としてカテゴライズされるが、政治的・文学的な環境もその経歴はきれいに対称的。しかし、それと同時に共通点も多い。つまり、上手く凸凹が嵌まるような関係になっている訳で、同じ時代に生きていながらも、それぞれの経験がお互いに相補うようになっていて、タイトル通り複眼的視座の下に幼少期から現在(80年代前半)までがほぼ時系列的に回想されている。語りも、埴谷のいわゆる「ボレロ的饒舌」に対して、大岡の江戸っ子的な歯切れの良さも好対照。70歳を超える両者の知的絶倫には脱帽です。
2014/02/22
あかつや
しきりに互いを「いい男」と褒め合うので、そうだったかと画像検索したらまあまあだった。まあまあってのは反応に困るな。かくの如く、なあんかじーさん達がいちゃいちゃやってんなっていう印象の対談なのだが、そのじーさんってのがこの2人なんだからそりゃ面白い。生い立ちや若い時の読書、歴史の証言なんかも興味深いが、とりわけ文壇周りについての話がいい。「イヒヒの吉田健一」は反則だわ。声を出して笑ってしまった。脱線も魅力で、対談の締めの近況についての話が突然「ホモ」の思い出話に変わったり。立会った編集者も苦労したろうなあ。
2018/06/28
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