磔のロシア――スターリンと芸術家たち (岩波現代文庫)
磔のロシア――スターリンと芸術家たち (岩波現代文庫) / 感想・レビュー
燃えつきた棒
暗鬱な読書だった。 僕が見出したのは、「二枚舌」によってしたたかに生き延びる芸術家たちの姿ではなく、絶対権力者の気まぐれに翻弄される彼らの「個の脆弱性」だった。 【「旧約の神」にも等しいその独裁者は、かつて詩人が、風刺の唾を吐きかけた相手でもある。いま、詩人は、その絶対者を前にしては、限りなくゼロに近い弱者でしかないが、それでも、完全に無力な姿をさらして生きているわけではない。詩人には、衰えることを知らない一つの稀有な力が授かっている。その力とは「二枚舌」である。】(「はじめに」)
2022/03/09
tsubomi
2016.02.20-03.08:「終末と革命のロシア・ルネサンス」でロシア・アヴァンギャルドを取り上げた著者がスターリン粛正時代について書いたもの。マヤコフスキー、ゴーリキー、ショスタコーヴィチなど有名な人物がいかにしてその時代を乗り越えまたは乗り越えられなかったか、の詳細が語られます。実に恐ろしいのは、昨日まで体制側/権力者側だった人が今日には逆の立場になって逮捕・処刑されてしまうこと。そして誰も彼もがスパイであること。その徹底した作戦ぶりは「トゥルーマン・ショー」かというくらい。実に戦慄の時代。
2016/03/08
どら猫さとっち
スターリンの独裁政権下で、彼らはどう生き抜いたのか。6人の作家や芸術家たちの苦闘と数奇な人生の書。そのなかに登場したショスタコーヴィチは、以前「ショスタコーヴィチとスターリン」で読んだし、マヤコフスキー、ブルガーゴフやエイゼンシテインは、著者がテレビ出演したNHKの番組で見ていたので、多少は記憶している。しかし、ゴーリキーは暗殺説があったのは、驚きだった。
2019/06/04
壱萬参仟縁
磔は「はりつけ」というのは知らなかった。こんな漢字も知らなかった。ブハーリンのいう「社会主義とヒューマニズム」とは、「全面的な発展、多面的な(物質的にも「富裕な」)生活を願う心」であり、「最大限の発展の自由」がその尺度となるような社会の建設が目ざされるべき(177-8ページ)。諸個人の人間性が社会発展にどう関わるか、は経済体制問わず、社会にとって重要な視点といえよう。2002年初出、3・11直前の発刊であるが、「廃墟のなかでこそ、芸術と生活が、隣同士で仲良く呼吸することができる」(388ページ)。脱廃墟。
2012/12/25
BATTARIA
メイエルホリドは処刑されたのに、なぜよりあからさまにスターリンをコケにしたマンデリシュタームは流刑止まりで、ショスタコービッチはスターリンにボロクソに言われたのに、なぜ逮捕すらされなかったのか、謎が解けた。スターリンといえども手を出せない聖域があったこと。そしてこれでもかってくらいに石橋を叩いても渡らない、慎重にも慎重を重ねたことが、スターリンが権力を死ぬまで維持できた秘訣だったわけか。ショスタコービッチの交響曲第5番で、木琴を演奏したことがあったが、この本を読んでいたら、大太鼓をやっていたものを。
2018/07/20
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