瀬戸内少年野球団 (岩波現代文庫)
瀬戸内少年野球団 (岩波現代文庫) / 感想・レビュー
s-kozy
「長い歴史の中で、たった三年だけ、子供が大人より偉い時代があった」(文庫版のためのあとがきより)と著者が言う敗戦から昭和23年までを描いた人気作詞家による自伝的小説。神国日本の敗戦によりもたらされたのは巨大な虚無感。しかし、その後、日本人は民主主義と出会い(教科書の墨塗り)、男女同権と出会い、野球と出会う。高度経済成長に至るエネルギーをじんわりと蓄えていく日本の姿が活写されている好著。少年は国民学校三年生から尋常学校四年生を経て、小学六年生となった。「進駐軍のおっちゃん、ギブミーや、ギブミーしてんか。」
2014/11/27
なる
山口百恵や沢田研二などの楽曲を手がけた戦後を代表する作詞家である阿久悠が、自身の自叙伝といった趣きで故郷の淡路島を舞台にして書かれた青春小説。太平洋戦争が終わった直後の混乱した国内の片田舎である淡路島で、結成された少年野球チームを主軸にしながらも進駐軍がやってくる混乱や戦後におけるそれまでの文化の否定などに揺れ動いた激動の時代を詳細に描いている。現在ではなかなかイメージしづらい戦時中・戦後の価値観みたいなものも背景に描かれており時代を知る上の資料としての価値もある。評判わるいけど映画も観てみたい。
2023/12/14
ゐづる
はだしのゲン後半のような、戦後の勢いを感じました。野球チームできるまでに3/4ぐらいかかりまして、どうなるんだとおもいましたが、結果的にはそれでよかった。戦後は石器時代級の苦しさから始まったようですけど、なんにもないけど「新日本の建設」は楽しそうでうらやましいですねえ。今はもうなんでもあるから・・・
2014/01/24
あかつや
敗戦直後の淡路島の暮らしを描いた物語。それまでの価値観を一挙にひっくり返されて足元がおぼつかなくなっても、少年少女たちは力強く生きていく。タイトルに「少年野球団」とあるがなかなか野球団は結成しない。全体の半分以上経過したところでようやく。したがってずっと野球をしているわけでもなく、この時期の島の人々の生活や風俗を子どもたちの視点で見ていくことが中心になっている。一番好きなエピソードは、飲み屋のお姉さん方の前でつい意味も知らず「パンパン」といってしまった照国くんが彼女たちに拉致される話。オチがすごくいい。
2019/02/07
鉄善
玉音放送から3年間の作者の記憶を基にした物語。野球の描写は少なく、敗戦の意味を少年の目を通して深く考察した傑作。その時代の流行歌の歌詞から時代の空気を生き生きと描いているのは阿久悠ならでは。「りんごの歌」の歌詞「青い空」から、B29が飛ぶことのない空はこれ程綺麗なのだと云う、この曲が流行した背景は正にそれなのだろうと妙に納得させられた。
2016/12/19
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